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夏目が知らない男と楽し気に並んで歩いている。俺は目を擦って見間違いを願ったが、擦った後の光景も同じだった。
今日、お前の部屋に初めて招待された日だったけど、予定が出来たからってキャンセルされたんだよな、俺。
キャンセルの予定が何?その男?
いや、嘘だろ。
公務員試験の為の講座って言ってただろ?何でここにいるんだよ。終わったんなら連絡寄越せよ、激しく動揺して混乱した。
自分でも気付かないうちに、こっそりと夏目の後をつけていた。
お洒落なガラス張りの喫茶店ともレストランとも言えない店に夏目はその男と入ると、ずっと笑顔で話している。
楽しそうじゃねぇか。
夏目の携帯に電話を掛けた。
気が付いた様な夏目が、目の前の男に頭を下げると店から出て着信に応答した。
俺は電柱の陰に隠れて夏目の様子を見る。
「も、もしもし、久喜か。連絡出来なくてごめん」
「いや、何?講座終わったの?」
知らない振りして夏目の言葉を待った。
「あ、い、嫌、まだ、だ」
「そうか、ん?なに?何か外みたいな感じだけど」
何で嘘吐くんだよ。
「あ、い、今、休憩中なんだ、これからまた始まる」
「講座の教室に戻るのか」
「あ、ああ、そう、もう、も、戻らなくては… 」
嘘が下手くそ過ぎだろ。
涙が滲んだ。
「目の前、見ろよ」
スッと俺は電柱から出た。
「あ… 」
何だよ、その狼狽えた顔。
全然綺麗じゃねぇし、俺好みの夏目じゃねぇわ。
「お前、元々ゲイだったのか?」
何でそんなこと言ったかな、俺。
「違う、というか、久喜、あの… 」
スマホを持ったまま、すがる様な目をした夏目は好きじゃなかった。
「まぁ、じゃあ、ごきげんよう、だな」
そう言ってこの場を去ろうと思い、踵を返して夏目に背を向けた。
「待ってくれ!久喜っ!話しを聞いてくれ!」
夏目らしくない、焦って狼狽えた声が背中に聞こえて、ふっと笑った。
俺、めっちゃモテんだよ。
恋愛に困ってねぇから。
涙が頬を伝って、唇を噛んだ。
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