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夏目と離れる覚悟
『今、電話平気?』
夜、この時間なら家にいるだろうと思って夏目にメールを送った。
夏目の事だ、また色々考えて返信出来ないでいるんだろうと思いながら、スマホの画面を切なく見る。
ブーブーっとスマホの振動がして、夏目からの着信画面に驚く。
え?マジ?夏目から?
俺が恐る恐る電話に出る形になった。
「も、しもし… 」
「…… 」
何も言わない夏目。いや、なんか言えよ。
「夏目?」
「………… 」
夏目から着信があったとはいえ、電話をしてもいいかとメールを送ったのは俺だからな、と思って話しを進める。
「あ、のさ… ちょっと会って話せるかな?」
「………… 」
「夏目、なんか言えよ」
業を煮やして少し苛立って言った。
「ああ」
ひと言だけの夏目に、わざわざ会わなくてもこの電話で「別れよう」って言ってもいいか、とか思えた。
「俺達さ… 」
「何処に行けばいい?」
最後まで言い切らないうちに夏目が「何処に行けばいいか」と訊いてきた。
「あ、じゃあ… 〇〇駅の公園に来れるか?」
俺が夏目の最寄駅の路線に乗り換える為の駅で、二人の丁度中間地点。大きな公園が駅から歩いて5分位の所にある。
「そこの何処に?」
「『空の塔』で待ち合わせしよう」
以前に二人で行った事があるから夏目にも分かるだろうと思った。
「… 分かった」
消え入りそうな声で夏目が返事をした。憂鬱なのか、そうだよな、俺だって… 憂鬱だよ。でもこのままは良くないだろ、夏目を見たら気持ちが戻ってしまいそうで唇を噛んだ。
夜になると結構冷え込んできていて、薄手のジャンパーを羽織ってきて良かったと、少し冷たくなった風に思う。
先に夏目が来ていて、塔の側のベンチに座っていたが俺を見ると立ち上がって訊く。
「何?… 話しって?」
何? って事ないだろう、電話からの雰囲気で何だか察しただろう。
ふと見ると夏目は薄手のシャツ一枚だけで、酷く寒そうに見えた。
「お前、何も羽織って来なかったのか?」
「こんなに寒いとは思わなかった… 」
「ばか…… 」
危うく抱き寄せてしまうところで、ふっと我に返って上げた腕を下ろした。
俺達、もう駄目だよな。
俺達、別れようぜ。
ここまで来る道すがら、いろんな言葉を探した。
夏目はどう思っているんだ?
此の期に及んでまだ未練たっぷりの俺。
そうだ、あの日の事、夏目の家に行く筈だったあの日の話しを聞いていない、と思ったけど、今更だよなと思って軽くフッと笑みが溢れた。
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