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夏目の反撃
「でも!久喜だって悪いんだぞ!」
へ? 俺? 俺も悪いの?
「今までずっと、久喜は彼女から追われるばっかりで、追った事なんかないだろう!」
え? 何で急に豹変したの?
夏目は涙を浮かべて叫び出した。
「だから今回だって、俺が謝って来るのを100%待ってただろう!俺は久喜が何か言ってくるまで絶対に何も言わないつもりだったからな!」
えっと、これは?なに? 新たな宣戦布告?
「ふん、俺が何も言ってこないから、久喜も我慢がならなかったんだろう。俺の粘り勝ちだな」
え? お前が勝ったの? 何に?
明らかに夏目はおかしかった。そんな事を言いながら涙を流している。
「…… だから、だから久喜、俺から離れていかないでくれ… 」
そう言って両手で顔を覆った。
… 何に対しての『だから』だよ。
傍に寄って抱き締めると、俺に抱き付いて夏目がギャンギャンと泣き出した。
いつも冷静で、こんなに取り乱した夏目を見たのは初めてだった。
「こんなに冷たくなって、風邪ひくぞ」
薄手のジャンパーを広げて夏目を中に入れて抱き寄せると、俺も涙がこぼれ落ちた。
「今からお前ん家、行っていい?」
もう、我慢なんか出来ねぇからな。
しゃくり上げて泣いていた夏目の動きがピタリと止まり、コクリと頷いた。
黙ったまま、何も喋らずに二人で歩く。少し緊張している、互いに。
コンビニに寄って半透明のレインコートを買う。ついでにローションも。正直、どっちがついでだか定かじゃねぇけど。レインコートは俺が着て、薄手のジャンパーは夏目に着させた。
「久喜、雨は降ってないぞ」
ぶっ飛ばすぞ、と思った。
「こっちの方があったかいから」
そう言ってにっこりと笑って見せると、いきなり抱きついてきて顔を擦り付けた。人通りが多いのに、いいのか?夏目の行動に驚きながらも、頭をよしよしと撫で回す。
✴︎✴︎✴︎
「さ、さぁ、上がってくれ… 」
駅から十五分程歩いただろうか、三階建てのアパートの二階に上がり、落ち着かない様子の夏目が俺を招いた。
夏目らしい、きちんと整理されていて部屋は綺麗に片付いている。狭めの1LDKだったが一人で暮らすには十分そうだった。
「女も呼んだことあるの?」
思わず訊いてしまった。
「ない」
「ホントに?」
「ああ、今まで誰も部屋に呼んだ事がないから… 少し緊張した」
顔を赤らめて夏目が言う。
どうにも可愛くて、愛おしくて腕を掴んで引き寄せた。
「俺もごめんな」
やっぱり俺だって悪かったよな、そう思って謝った。
「く、久喜… ひとまずレインコートを脱ぐといい」
ワシャワシャガサガサと音が煩い。
「上着を… ありがとう… 」
上着を脱いで、恥ずかしそうにポールハンガーに掛ける夏目を後ろから抱き寄せた。
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