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夏目の回想
ねぇ、久喜。
泣きたい位にお前を愛してる。
こんなに近くに久喜の顔がある。
和らいだ久喜の寝顔も、朝まで俺を抱き締めて離さないこの腕も、全部、愛おし過ぎて堪らない。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
ねぇ、久喜。
お前はどうしてそんなに自由に、自分の思う様に生きていけるんだ。
人目を憚らず俺にキスをしたのは、都会で生まれ育ったからなのかと、地方出身の俺は思った。
付き合う事になった、初めてキスをしたあの日は夢中で、思い返すと顔から火が出そうな程に恥ずかしい。とは言っても、勿論決して嫌だった訳ではない事は言っておきたい。
いつ、何処から人が現れるか分からない俺は、いつもお前が寄せる唇を避けてしまった。
そして、もう二度と唇に触れる事が無くなった久喜に、俺はどうしたらいいのかと切なくて、胸が痛んだ。
それでも久喜は、いつも俺を見ていてくれた。俺を一番に考えてくれていた。
それに胡座を掻いていた訳では無いが、久喜が他の仲間と如何わしい話しをしているのを聞いた時、俺の混乱や怒りは自分でも驚く程だった。
久喜が他の男と!?
必死に走る俺を、同じ位、いやそれ以上必死に追いかけてくれた久喜が嬉しくて、涙が滲んだ。
ねぇ、久喜。
俺はお前と繋がるのが怖かったんだ。
沢山、経験しているだろうお前が俺を抱いて、がっかりしてしまったらと、失望してしまったらと、そんな事を考えると、埋めたいその胸に飛び込む事も躊躇った。
決して焦らしていた訳じゃない、お前に嫌われるのが怖かったんだ。
お前を満足させられなかったら、やっぱり女の方がいい、そんな風に思われてしまったら、どうしようかと思って怖かった。
久喜から滲み出る、求める想いを感じ取れなかった訳では無いけれど、気付かない振りをして誤魔化していた。
それでも久喜は、いつも楽しそうに嬉しそうに笑ってくれて、俺を色んな所へ連れて行ってくれた。
ねぇ、久喜。
お前が俺の喜びだ。
お前が観たいと言った映画は、絶対に俺もハラハラしたし、楽しめたし感動した。食べたいと言ったスイーツもラーメンもパスタも、全部美味しくてお前以上に俺が喜んだ。
行った事の無い有名な観光名所にも、お前はよく連れて行ってくれた。名所になる筈だと、感嘆して隅から隅まで、小さな石ころにまで見入る俺を優しく笑って見ていてくれた。
本当は公務員試験を受けるんだと言った時には、頑張れよ、と笑って勉強に付き合ってくれた、と言うか一緒に図書館に足を運んでくれて… 直ぐ傍にある久喜の綺麗な寝顔を見る度に途轍もなく安心した。
そんな久喜に、俺の心は全部持っていかれていたんだ。
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