夏目の回想

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… だから、 あの日、久喜に会うなんて微塵にも思わなくて、お前の顔を見た時には酷く困惑した。 嘘を吐こうと思った訳じゃない、誤魔化そうとか、欺こうとか、そんな事を思った訳ではないんだ、なのに、上手く喋れなくて、どうしていいか分からなくて、怒ってしまった久喜の背中を、涙を堪えてただ見送った。 何度か電話とメールをしたけど、何の応答も無くて、ひどく怒らせてしまったと思ったら、俺はもうどうする事も出来なかった。 次に会った時に、誠心誠意、謝ろうとそう思ったけれど、今までの様に久喜に会える事は、もう無かった。 昨日までの俺達はもう今日には無くて、何時間待っても久喜は現れなかった。 待ち合わせの時間に遅れた時は、眉を八時二十分にして電車から一旦降りて、ごめんごめんと両手を顔の前で合わせる。 そんな久喜が、次の電車で現れるかも知れないと思って、何十本も電車を見送った。 それでも久喜が来る事はなくて、 俺はその場から一歩も動けなくなってしまった。 ねぇ久喜。 俺はどうすれば良かったんだろう。 久喜が俺から離れてしまったのが分かって、暗い部屋で何日も過ごした。 昔から親や先生に『何を考えているのかよく分からない』と言われてきたけれど、別に分かって欲しいなんて思っていなかったし、理解されなくても特に困った事もなかった。 でも今は、久喜には分かって欲しい、これほど他人に自分の気持ちが分かって欲しいと思った事はない。 それでも、分かって貰う為の方法も知らずに、努力もせずに生きてきた俺は、どうしたら良いのか分からなかったんだ。
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