夏目の回想

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ねぇ久喜。 俺はお前に会うのがとても怖かったんだ。 あからさまに避けられてしまったら、きっと立ち直れない。悪いのは全部俺で当然の事なのだけれど、楽しかった幸せだった思い出が全部消えて無くなってしまう気がして、怖くて怖くて仕方無かった。 それでも、 ずっと部屋に篭っている訳にもいかず、意を決して大学へ足を運んだ。 久喜と一緒じゃないからか、周りの人間は腫れ物にでも触るような目で俺を見た。久喜もこの授業を受ける、心臓がドクドクとしていた。 一瞬、水を打った様な静けさになり久喜が来たのが分かった。心臓が破けそうな位に激しく打って顔が引き攣る。早く授業が始まってくれ、そう思って震える手で教科書を開いた。 この授業を終えたら今日は久喜と授業は被っていないから、顔を合わせる事も無い、少しホッとして次の講義室へ移動しようとした時、久喜と目が合い咄嗟に逸らした。 このまま倒れて死んでしまうのではないかと思える程の猛烈な心臓の鼓動に耐えながら、俺は久喜がいる場所とは反対の扉から講義室を出て行く。 あからさまに避けたのは、俺の方になってしまった。 ねぇ久喜。 俺はどうすれば良かったんだろう。 胸が痛くて苦しくて、涙が止まらなくて、誰もいない廊下の隅でしゃがみ込んで声を殺して泣いた。 それでも時は、一昨日より昨日よりと少しずつ、ほんの少しずつ痛みを失くしてくれて、久喜を想わない日は無かったけれど少しずつ楽にしてくれた。 だから、ねぇ久喜。 俺は必死になったんだ。 久喜からメールが届いて、スマホを開けるのが怖くて、震える指でタップをして 『今、電話平気?』 の文字に沢山の感情がごちゃ混ぜになって、自分から電話をしたくせに何ひとつ言葉が出なかった。 『会って話せるか』と言われて、久喜の言いたい事が分かってしまった。 会いたいけど会いたくない、会いたくないけど会いたい、そんな分からない感情でいっぱいになって黙っていたら、電話で別れを告げられそうになって慌てて応えた。 「何処に行けばいい?」 以前に二人で行った大きな公園。 天気の良い日で、真っ青な空と熱い太陽が思い出された。
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