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「夏目?」
周りに人はいなかったとは言え、公の場でキスをしたのが嫌だったのか、少し眉を顰めていたけど軽く微笑んで、
「く、久喜は無節操だな」
酷く困った様に俯いた。
そう言われてしまったが、二人きりになれる場所はない。人気を避けたところで、いつ人が来るか分からない。今ならいいだろうと思って顔を近付けると、必ず夏目は何かしら話し出してそんな空気に水を差した。
だから俺はもうそれ以上夏目にナニかをする事が出来なくて、あの、困った顔を見たくなかったし、雰囲気を濁した後の空気が嫌だった。
◇◆◇
「愛し合ってるかぁ〜い?」
夏休みは終わり、後期の授業が始まる。
講義前、能天気に小島が俺の背中を叩く。
お前は人を苛立たせる天才だな。
「ああ、滅茶、愛し合ってるわ」
いや、身体は一度も愛し合っていない。むしろ、小島、お前が横で爆睡していたあの夜…
ゲイのカップルが隣りの部屋でセックスを始めたあの夜、その声に刺激されて俺は背中で寝ていた夏目のモノを借りてヌいた。
あの夜が一番愛し合っていた様に思えて、切なくなる。
「ゲイのカップルなんて大抵好奇の目で見られんのに、何でお前らは羨ましがられるんだろうな」
いい男はどう転んだって得する様に出来てんだな、と言う小島にふっと笑って見せる。
「余裕の笑みだな」
小島の言葉に、頭を掻いて「まぁな」と誤魔化した。
もしかして夏目は、後悔しているんじゃないかと、俺と付き合い始めた事を後悔しているんじゃないかと思って、顔が曇った。
「お、夏目!」
小島が俺の背中越しに目を遣った。
気持ち振り向いて、夏目がいるだろう方を見る。
「じゃ、またな」
と、小島が他の仲間の元へ行くと、夏目が俺の隣りに座った。
「どうした?元気ない、か?」
俺の顔を覗き込む瞳がキラキラして眩しい。
「いや、お前の顔見たら元気出た」
作り笑いで答えると
「それまでは元気なかったのか?」
何も疑わない顔で俺を見る。可愛いな、でも何だよ、俺、お前を自分のものに出来てる感じがしねぇよ。
だよな、ヤッてねーもん。
「今度、お前ん家、行っていい?」
どんな答えが返ってきても、動じないから俺、と覚悟した目で夏目を見る。だって、もう絶対に夏目を抱きたい!我慢が出来ないっ!
「え?来るか?大歓迎だっ!」
え? 大歓迎? もしかしていつでも行って良かったのか? 何だよ、もっと早く訊けば良かった。俺はにこにこ顔になる。
「いつ来る?」
夏目も嬉しそうに訊いてきたけど、ん?
夏目の家に行く = ヤる
って感じじゃねぇな。
夏目、付き合うってどういう事か分かってるよな?
いや、セックスが全てじゃねぇけど、ある意味全てじゃん。お前だって女と付き合ってた時シてただろう?
そう思った途端に酷く落ち込んだ。
そうだ、夏目も女とシた事あんだよな。
やだ、やだ、考えたくない、頭をわしゃわしゃと掻きむしった。
「どうした?久喜、具合でも悪いのか?」
心配そうに俺の顔を覗き込む。
可愛い、目茶苦茶可愛い、ヤリたい、抱きたい。
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