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何かあったのかと訊ねても、何も言わずに黙ったまま食事をしている夏目。
「なぁ、どうしたんだよ」
箸を持っている夏目の腕を掴んで揺らしたから、思うように口に運べなくなって更に怒った顔で俺を見た。
え?何?何?どうしたんだよ。
「明後日は無しだ」
そうひと言だけ言って、まだ食事が残っているのにも拘わらず席を立って返却口に向かうから、俺も急いでトレイを持って立ち上がった。
「待てよ、明後日無しって、何だよ!」
死ぬほど楽しみにしてたのに、何でそうなるんだよ、せめて説明しろよと思いながら夏目の横に並んで眉を顰めた。
返却口に食器を置くと俺を無視してズンズンと歩いて行く夏目の後を追う。
マジで何なんだよ、言えよっ。
こんな夏目は初めてで、俺は戸惑いと苛立ちに困惑する。
「夏目!お前いい加減にしろよ!」
いくら可愛い愛する夏目でも、俺だって怒るわ。
「浮気者っ!」
振り向くと、涙を滲ませて夏目が声を殺して小声で叫んだ。
は?浮気者?何で?
俺の頭の上はハテナマークでいっぱいになる。
次の瞬間、夏目がダッと走り出して俺から離れて行った。いやいや、待て待て、何の話しだよ!俺も急いで走って夏目を追いかけた。
何だよ夏目、陸上でもやってたのかよ、めっちゃ速ぇな、なかなか追いつかない。本気出して全速力で走る俺。
人気の少ない裏庭で漸く夏目の腕を捕まえて、はぁはぁと息を切らして
「何の話しだよ」
もう逃げられないように、強く腕を掴んだ。夏目も息が切れていたが、落ち着くとポツリポツリと話し始めた。
「俺だって、色々と気持ちの整理と言うか、覚悟というか… そんなのが必要だったんだ」
唇を噛みながら夏目が涙声で言う。
「う、うん… 」
何の覚悟? 分からなかったけど、話しを遮りそうだったから訊かずに黙って聞いた。
「それなのに久喜は、もう他の男と、その… 」
何を言ってるのかさっぱり分からない俺は、眉間にしわが寄る。
「それに… 久喜は受ける方だったんだな」
何を?
「悪い、夏目、言ってる事がさっぱり分からない」
もうそう訊くしかない程に、夏目の話が分からなかった。
「さっき食堂で話していただろう!その… 四つん這いになって… 恥ずかしいとか… 」
え? ああ!ケツの穴の脱毛の話しか!
話には納得いったが、夏目に脱毛の事は言いたくない。どうする?俺。でも言わなきゃ誤解が解けないし、しかも俺、受けになっちゃってんじゃん、やだよ、夏目を抱きたいもん。
え?夏目の覚悟って、その覚悟?
やだ、マジ? 俺はニヤけてしまって夏目の怒りを更に買う。
「何が可笑しいんだ!腕を離せっ!」
掴まれている腕をぐいぐいと揺さぶって離そうとする。
「離さないよ」
そう言って俺は夏目にキスをした。
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