第三夜-4

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 佐藤からこの話題を振ってくるとは……どういう意図だろう。俺は努めて冷静に話を続けさせた。  「実は今話題になっている例の配信事件、私も見てしまったんです。仮面の男が拷問するやつです。配信ではなく誰かが保存して拡散した動画ですけど」  世間にも知られてしまっている事はわかっている。それこそ犯人の狙い通りだ。  だが、警察からは葉田里乃に関する情報は発表していない。  「それで、葉田さんの件と何か関係が……?」  「あの事件の被害者って、里乃ちゃんに酷い事していた人達ですよね?」  確信を持った表情だった。  「何故、そう思うのですか?」  「私、里乃ちゃんがなみきを辞めてからもずっと連絡を取っていました。最初こそ当時を思い出して嫌な気持ちにさせてしまうかもって私も避けていたんですけど。でもやっぱ心配で一方的に近況をメールしていました。そしたら、いつしか返事が来るようになって。時々、年に1回ぐらいですけどお茶するぐらいの仲にはなっていました。そして、その時に聞いていたんです。盗撮被害や、職場でのセクハラの話も。その度になんとか助けてあげたいって店長にも相談していて……。でも里乃ちゃん、私は大丈夫だからって、心配かけるような事言ってごめんねって、謝るんですよ」  ここまでは予想通りだった。葉田の近況を聞いていたからこそ、西浦や赤川の件についても彼等が関与しているのだろうと。しかし、この内容を俺に話す利益は無いはずだ。  「あの配信を見て、気が付いたと」  「ええ。あそこまで酷い状況だったとは思いませんでしたけど……。里乃ちゃんから聞いていた話と一致する部分が多かった事と、警察の方が来たので確信に変わりました」  「それで、あなたは葉田からの相談に応じて何か行動されたんですか」  「……何もさせてくれなかったんです。話すだけですっきりするから大丈夫だって。強引にでも助けてあげればよかったって後悔してます。でももう、取り返しがつかない……」  佐藤の目から抑えきれなくなった一筋の涙が零れた。その一粒をきっかけに、堰を切ったように溢れ出て止まらなくなってしまった。だが何とか絞り出し、佐藤は続けた。 「里乃ちゃんを死に追いやったのは……私なんです」  俺はついに掛ける言葉を失った。
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