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第一夜-1
5月も中旬に差し掛かり大型連休の余韻も虚しく、春の陽気から徐々に季節の変わり目を感じさせる平日の夕暮れ時、突如として現れた人体の一部。
穏やかな公園には似つかわしくない人間の両腕が発見されたのは、墨田区立錦糸公園の中央からやや南寄りに設置された噴水の中だった。
第一発見者の女性は日課のランニング中、噴水が赤く染まっている事に気付き覗き込んだところ例の腕を発見、通報したという事だ。
俺と高柴は出動要請を受けてから20分程で現着した。
立ち入り禁止と書かれたテープに覆われた発見現場に辿り着き、手帳を見せて中に入る。周辺では、その他の部位の捜索が所轄捜査員の手によって行われているようだ。
そして噴水の付近では既に引き上げられた腕がブルーシートの上に置かれ、鑑識が写真を撮っている。
「酷いな……」
切断部は損壊が酷い。恐らくチェーンソーか何かで無理矢理切断されたのだろう。
しかし、何故こんな事を……
「ああ、これは酷いな。……ん?高柴はどうした?」
少し先に到着していた宮園が歩み寄る。
サボり未遂の件はすっかり忘れてくれているようだ。
「悟ならあっちです。いつものっすね」
付近の公衆トイレを指さす。捜査一課に配属されて浅いわけでもないのに、高柴は相変わらず遺体が苦手だ。正確に言うと今回は”遺体”ではないのだが。
従来、人体をバラバラにするという行為は証拠隠滅の為に行う事が殆ど。
つまり見つからない為に行うのだ。しかし、今回は明らかに違う。見つけてもらう事が目的のように感じる。
そこにどんな意図があるのだろうか。
暫くその場で考え込んでいると所轄捜査員の一人が報告に来た。
「失礼します。噴水の中にこんなものが……」
渡されたのはビニールに入った一枚の紙。腕が発見された付近の水底に張り付けられていたらしい。
「なんだ、これ?」
中身は横開きの洋型封筒、さらにその中には名刺サイズ程の真っ黒なカードが1枚。
表面には『invitation』の白い文字、そして裏側にはホームページのURLのような文字列と『21:00』とだけ記されていた。そのまま捉えれば、21:00に記されたURLのサイトへ飛べ、という事だろうか。
正直、嫌な予感しかしなかった。
「これ、動画サイトのURLですね」
いつの間にか戻ってきていた高柴が、口元をハンカチで抑えながら覗き込んでいた。
「動画サイト?」
「ええ、若者を中心に人気のサイトですよ。自分の趣味やネタを好きなように投稿して、それを見たり共有したり出来るってやつです。最近はその動画投稿で収益を得て生活している人も増えて来たとか」
「そんな世界があるのか……」
「先輩、そういうの疎いですもんね」
「うるさい」
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