第一夜-1

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 その後、近隣の本所警察署に置かれた特別捜査本部に捜査員が集められた。通常、事件発生時に設置されるのは捜査本部だ。特捜という事は「社会的反響の大きな重要事件」として判断されたようだ。  発見されたのは両腕部のみで厳密には殺人事件かどうか定義し難い状況だが、それに近い事件だという事、さらには例の動画サイトへの誘導という観点から悪影響が広がる事を懸念した本部の考えだろう。  そこでは最新の情報が随時共有され、都度捜査の方針を固める。それらを元に各捜査員へ指示が出される事になる。    捜査会議で開示された情報によると発見された両腕部は、体毛や筋肉量などから中年男性のものである可能性が非常に高いとされた。しかし、それ以外の部位や所持品等は見つかっていない為、依然身元不明のままである。  そして切断面から推察するに、肘より下部分をチェーンソーのような物で切断された物だと言う。生活反応が見られた事から、切断時に被害者は生存じていた可能性が高い事も示唆された。  「生きたまま切られたって言うのか……」  「惨いっすね」  隣に座っている高柴はまた口元を抑えている。現物がなくともこの手の話はキツイらしい。まあ、無理もないが。  「ああ。それに当然被害者は痛みにより暴れるだろうし、刃物を持った犯人側も危険を伴うはずだ。そこまでして腕を落とす事に意味があるのだろうか」  「よっぽど恨んでいる相手とか?」  「それもあるだろうな。だが、わざわざ見つけさせる意図、そして動画サイトへ誘導する意味がイマイチ掴めない」  動画サイトは高柴の言っていた通り若者に流行っているというサイトで、運営元は海外資本の大手メディア。サイトの利用停止指示も検討されたが、まだ何も起こっていない状況、さらにカード一枚の予告とも取れない内容だけで指示するのはハードルが高いようだ。  URLへアクセスしてみても初期設定の動画チャンネルページに移行するだけで、投稿はされていない。ユーザー名もデタラメな文字列で意味は無さそうだ。  後手に回るのは好きではないが、ここは致し方無いのだろう。カードに記された21:00を待つしかない。  しかし、一体何を見せられるというのだろうか。  多数の疑問を抱えたまま、各捜査員は指示された場所へ聞き込みや事情聴取に向かったが成果は0。その他、被害者の身元特定、街中に設置された監視カメラ映像のチェック、カード以外の動画サイトへの誘導、様々な角度からの捜査も現状ではこれと言った情報は得られなかった。通報からたった4時間余りでは捜査の手を広げるにも限界がある。  そんな虚しさを嘲笑うかのように、時計の針は問題の時刻を刻もうとしていた。
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