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第三夜-4
時刻は12時。2日振りに西川口駅へ降り立ちキッチンなみきへと急ぐ。予想通り、入口のドアに掛けられた『close』の札を見て肩を落とした。
並木店長とスタッフの佐藤ゆみ。関わって欲しくはなかったが、この二人以上に当てはまる人物が浮かんでこなかった。並木店長は防犯カメラに写っていた男の特徴と一致する。そして、逆井に近付いた”もう一人”の葉田里乃を佐藤が担っていたとしたら……。
念のため、予め調べておいた住所に向かう。並木は店から歩いて5分程の分譲マンション、佐藤は西川口と蕨駅の中間程に位置するアパート住まいだった。
マンションに到着しエントランスホールから503号室のインターホンを鳴らす。やはり出ないか。並木は現在独り住まい。数年前に離婚し妻と娘とは離れて暮らしている。
不在を確認し、次の目的地へ向かう。10分程で佐藤のアパートへ到着。こちらも単身だ。階段を駆け上がり2階の奥側の角部屋へ。カメラの付いていない旧式のインターホンを鳴らし様子を窺う。並木が不在という時点で結果は決まっているようなものだが……
「はい、どちら様でしょうか」
意外な返答に驚く。佐藤は在宅していたのだ。
実行犯は並木で、佐藤自身の役割は別という事だろうか。
「突然すみません、先日お店に伺った警察の者ですが」
動揺を悟られぬようなるべく落ち着いた口調で返す。中から足音が近づき、鍵を開ける音が聞こえた。
「……どうも、こんにちは」
少しばつが悪そうな表情で佐藤は俺を見上げる。
「お話を伺ってもよろしいですか?葉田さんの事と、並木店長の事で」
「ええ。私からもお話しておきたい事があったので、丁度良かったです」
「話したい事……?」
重なる意外な返答に混乱し、返事に戸惑ってしまった。
部屋の中に招き入れられ、2人掛けのダイニングテーブルに通された。
「狭いところですが、どうぞお掛けください」
「いえいえ。ところで佐藤さん、私にお話しとは?」
「里乃ちゃんの事です。先日いらした時、店長からは聞いていると思いますけど」
「ええ。お二人もお辛い経験をされたと伺っています」
佐藤が葉田里乃とどれ程の関係だったかは不明だが、どちらにしてもショッキングな体験である事は間違いないだとう。それに……
「そうですね……あれは、酷かったです。でも、一番苦しんだのは里乃ちゃんですし、あの柳井って男の事は本当に許せないです」
柳井を拉致する動機は十分なはずだ。
「そんな辛い記憶を掘り返して申し訳ありません」
「大丈夫です。それに、私が話したいのは今の事件の事です」
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