第三夜-5

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第三夜-5

 「……私のせいなんです。里乃ちゃんが亡くなる半年ぐらい前、柳井が出所した事を知ってすぐに里乃ちゃんに電話しました。危険だから気を付けてって。当然ですけど凄く驚かせてしまって……。それから暫く連絡が返ってこなくなっていました。それで、また心配になって電話を掛けたんです。そしたら違う人が出て、自殺の事を聞きました。きっと私が怯えさせてしまった。余計な事をしてしまったばっかりに……」  佐藤は耐え切れず嗚咽交じりに項垂れてしまった。俺は話の内容よりも、目の前の状況に対して狼狽えている。  「……」  決して佐藤のせいではない。彼女はむしろ、葉田の身を案じて連絡をしたに過ぎない。だが、仮に俺が佐藤の立場であれば同じように自責の念に駆られるだろう。  泣きじゃくる女性に対して適切な発言を持ち合わせていない俺は、佐藤の肩にそっと手を置く事しか出来なかった。  葉田の自殺理由は明確になっていない。遺書が見つかっていないからだ。 しかし、これまで葉田里乃の人生の一部を少し切り取るだけで、内に詰まったはち切れんばかりの不条理が溢れ出て来た。暗く冷たく重いドロッとした負の感情が彼女の仲を埋め尽くしていたのだろうと、容易に想像が付いてしまう程だった。  「……すみません、取り乱してしまって」  数分経ち、少し落ち着きを取り戻した佐藤は先程よりもか弱い声を絞り出した。  「気にしないでください。自分がアナタと同じ状況ならば、きっと同じように悔しい気持ちになります」  「優しいんですね。ありがとうございます」  「いえ……」  俺は自分がここへ来た理由を思い出し、気持ちを切り替える必要があった。 佐藤は、今回の事件に関与している可能性が高いと睨んでいた。動機は充分にあるだろう。だが、そうだとすれば何故今この話を俺にするのか。自ら名乗り出るつもりなのか。  いや、違う。他の可能性が浮かんできたはずだ。  「一つだけ、聞いても良いですか?」  「ええ」  「佐藤さんが電話を掛けた時、葉田里乃の自殺を伝えた人物に心当たりは?」  「私は知り合いではないんですけど、里乃の彼氏です。その連絡を取る三カ月くらい前に里乃と会った時、彼氏が出来たと言っていたので多分同じ人だと思います。ちゃんと教えてもらったわけではないけど、ケイくんって呼んでいたと思います」
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