第三夜-6

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第三夜-6

 コサカ製作所の社長だった小坂は西浦事件のすぐ後に逮捕され葉田への暴行罪を認めた為、スムーズに起訴となった。拘置所で裁判を待つ身だ。西浦と違い何故か犯人のターゲットにされていない理由は定かではない。順番ではないのか、それとも小坂の件だけ知らないのか。  しかし小坂にとってみれば、いつ襲われるかわからないまま生活を続けるよりもこのまま刑務所に入ってしまった方が身の安全は確保されるだろう。現に裁判までの間は保釈制度を利用する事もできるはずだが、一度も申請していないという。  小坂との再会は取り調べで机を殴って以来だった。人の人生を歪めておいて、自身の罪の意識はまるでない。そんな人間と会話をするのは御免だが、これが俺の仕事なのだ。それに聞かなければならない事がある。  「元気そうだな、小坂」  「ああ、有瀬さんか。何のようですか。もう全部話したでしょう」  開き直っているかのような態度の小坂に、仕切りのアクリル板ごと右ストレートを喰らわせてしまいたい気分だ。  「余裕そうだな。これから裁かれる奴とは思えないほどに」  「いやあ、なんだかスッキリしましてね。このまま秘密を抱えて生きていくよりはずっとマシだと思っているんですよ」  「自分の身の安全が確保された事が嬉しいだけだろう」  図星だったのか小坂の顔が少し歪み、今度は不貞腐れた。  「ふんっ、なんとでも言え」  「ところで、小坂。お前まだ、何か隠しているだろう」  次は驚いた顔。こんなにわかりやすく態度に出る男が、よくこれまで葉田に行った犯行を隠せていたものだ。  「な、なんなんですか。さっきも言ったでしょう、全部話したって」  「この期に及んでまだ隠し事をする度胸は認めてやるよ。だがな、本当に良いのか?考えが甘すぎるんじゃないのか」  「なんだ、何が言いたい」  鋭い目つきでこちらを睨みつけて来る。しかしその瞳の奥は小動物の如く震えているように見える。
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