第三夜-6

2/2
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/63ページ
 「お前は、このまま裁判で有罪となれば5年程度は刑務所に入れる。初犯のようだが、この手の犯罪は最初から実刑判決がつくことも知っているだろう。お前のパソコンの検索履歴から出てきたよ、〈性犯罪 懲役 平均〉と調べた痕跡がな。実際の刑期については俺にもわからないが被害者亡き今、行為に対しての合意の有無やどれだけ悪質だったかという点について相手側の証言は得られない。上手く立ち回ればもう少し刑期を短くすることも狙えるはずだ。だがお前は何もしていない。その理由は『西浦の二の舞を恐れているから』だ」  「……」    遂に小坂は黙ってしまった。こういう場合、反論がないという事は肯定しているのと同義だ。  「だが、たった5年程度で出所して良いのか?相手は復讐の為になんでもする奴だ。手足を切り取り、二度と満足に身体を動かせなくして苦しませた上で、個人情報をばら撒く。こんな手の込んだやり方で復讐を完遂しようとする人間だ。たった5年で釈放されて、その後平穏無事に生活が出来ると思うか?」  「……アンタ達が捕まえてくれるだろう?」  「当然だ。絶対に逮捕してやる。しかし、もし万が一捕まえられなかったら?配信を見て犯人の意思を継ぐ者が現れたら?仮に捕まえたとしても傷害罪だ。懲役は15年以下、模範囚であればもっと早いかもしれない。お前が出所してしまえば、そして犯人がお前に辿り着いてしまえば……」  「……」  「お前がキッチンなみきに連絡を入れ、葉田の過去について探っていたのは知っている。だが、何故お前がそんな事をする必要があったんだ?それを話せ」  観念した小坂は項垂れ、小さい声でぽつりと放った。  「……遺書だ。遺書があったんだ、葉田里乃の」  葉田が亡くなる少し前、それまで小坂が葉田へ関係を迫るのは決まって社長室か葉田の自宅アパートだったが、親族と暮らす家で暫く世話になるからと言いアパートへの入室を断られていた。だが自殺した日の前日夕方過ぎ、葉田が住んでいたアパートに入っていくところを偶然見かけた。目立つのはまずいので、小坂は深夜になるのを待ってから意気揚々と押し掛けた。こっそり作っていた合鍵を使ってドアを開けると、飛び込んできた光景は首を吊った葉田の姿だった。  「まだ身体が揺れていたが、間違いなく死んでいた。勿論殺してなんかいない。アレは本当に自殺だった」  「そこで遺書も見つけたのか」  「ああ。テーブルの上に丁寧に置いてあったよ『ケイちゃんへ』って手紙がな」  佐藤が言っていた彼氏の名前と一致する。信憑性はありそうだ。  「その遺書はどこにある?」  「もう捨てたよ。すぐに焼いちまった」  「何が書いてあった」  「細かくは覚えてないが、『ケイちゃん』ってやつに宛てたラブレターだよ」
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!