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レイちゃんは、俺のタブレットをポチポチしている。 「ほえー」「ええ!?」とか言いながら。 「師匠」 「ん?」 「師匠、もうこれならチートニートですね」 「チートニート?」 「これ、ほとんど何でも手に入りますから」 「働かなくていいってか?」 「はい」 アホか。 「レイちゃん」 「はい」 「君は意外とアホなのか?」 「え?」 「ニートは自分の部屋が必要だな」 「もちろんです」 「俺はどこに住むんだ?」 「あ」 「部屋を借りるにしても金は必要だ」 「私が部屋くらい借りてあげます。あ、同棲できるし」 おい、俺はそこまで落ちぶれてないぞ。 「それにな、物を得るには対価が必要なんだよ」 「知ってます」 「そのタブレットも、3万円で購入した」 「師匠、日本円を持ってたん、どこで?」 「異世界通販の会社」 たぶん。 「その店って、どこにあるんです?」 「俺の能力だ」 「え? 師匠の能力なのに、対価が必要なんですか?」 「そういう仕組みらしい」 「面倒ですね」 「いや、むしろ無料のほうが怖いだろ」 「そうですか?」 「俺の寿命を使ってるとか」 「あ、それは怖いです」 「だよな」 「もう、ガクブルですよ」 「俺の価値が1億円だったとして、高い買い物をしてたらすぐに死ぬな」 「ですね」 戦闘機なんて、人生100回でも買えないかもしれない。 「あ、私、このバッグが欲しいです」 レイちゃんは鞄が欲しいらしい。どれどれ。 「それ、30万円だぞ」 「欲しいです」 「だから、30万円」 「日本円なんて持ってません」 「同じ価値の通貨で買える」 「30万カラ?」 「そう」 「私、働きだしてまだ3ヶ月ですよ」 「それで?」 「実家にもお給料の半分お金を入れてるし、そんなに貯金はありません」 「なら、我慢するんだな」 「ぐぬぬ」 「公務員ならボーナスがあるだろ」 「30万カラもないですよ」 「まあ、屋台が儲けたら、ボーナスやるよ」 「師匠! 死ぬ気で頑張ります!」 「お、おう」 いや、30万円の鞄くらいで命をかけるなよ。 「で、何を売るんですか?」 「食べ物にしようかと思ってたが、このタブレットがあれば何でも売れる気がする」 「でも、異世界通販で仕入れをして売ってたら、送料で赤字では?」 「それが、どうやら送料無料らしい」 「プレミアム会員は無料みたいな?」 「たぶん」 「師匠、商売王になれますね」 「別に俺は商売王なんか目指してないけど」 「在庫も倉庫もいらないし、店員も最低限でできるし、ガッポガッポじゃないですか」 「まあ、売れたらだけど」 「売れますって」 「屋台に」 「え?」 「屋台広場に、何でもどんどん買ってくれる金持ちがたくさん来ると思うか?」 「あ、来ませんね」 「それにだ、珍しくて高価な物を売ってたら目をつけられそうだ」 「ですよね」 「まあ、パンとかハンバーガー、おにぎりと唐揚げくらいだろ」 「あ、いいですね」 あ、とんかつ定食を食べたから、宿の人に朝ごはんをキャンセルしないと。 「朝ごはんをキャンセルしてくる」 「あ、はい」 朝ごはんはキャンセルできなかったので、弁当にしてもらった。 部屋に戻ると、食べ終えて置いていた、とんかつ定食の食器類が消えている。 「レイちゃん、とんかつ定食の食器とか知らない?」 「消えましたけど」 「え?」 「自動で返却じゃないんですか?」 「なるほど。そうかも」 確かに、食器類込みで1980円は安いよな。食器とか転売できるし。 異世界通販で仕入れができるなら、市場へ行かなくてよいのも助かる。 売れ残りも出ないもんな。 売値だが、仕入れの2倍で売ればいいかな。 宿が素泊まりで1日3000カル、食費が2000円として、レイちゃんにアルバイト代を渡すとして、1日に2万カルは売り上げが必要だろうか。 あ、市役所が休みの日はレイちゃんがアルバイトをしてくれるけど、平日はどうする? 俺はタブレットで異世界通販して品物を出さないとだし、客が何人も来たら対応ができないかも。 考えていたことを試してみるか。レイちゃんで。
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