1/1
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/42ページ

異世界転生したことに気がついた15歳の俺。 前世は地球で将棋のプロ棋士だったことを思い出した。 しかし、こっちの世界には日本将棋連盟なんてないし、将棋なんてない。 発動したスキルも【マジックハンド】なんて訳の分からないものだ。 人生をかけてプロ棋士になったのに、もう将棋はできないのか? まあ、こっちの世界で得たスキルを使って仕事をするしかないのかもだが。   しかし、俺のスキルは仕事に役立つスキルなのか? ステータスの説明を読めば、だいたいのことは分かると思うが、家族やいろんな人にスキルについて質問されて、ゆっくりとステータスの説明文を読むひまがない。 「ナイン、マジックハンドって何だ」 「兄ちゃん、どんなスキル?」 「兄ちゃん、マジックハンドって美味しいの?」 「兄ちゃん、手品ができるの? 鳩とか出せる?」 そんな質問責めにあっているのだ。 ん? なるほど。手品か。 ここは無難に手品師にしとくか。 こっちの世界は地球と違って娯楽が少ないし、手品師は稼げる職業だし。 「うん。どうやら俺のスキルは手品師らしい」 「ほう。で、レベルは」と、父親。 「9」 「は? 9?」 「うん」 「だめだな。いや、完全に駄目とは言わんが、1流にはなれんかもだ」 「まあ、うん」 だいたい、1流になれるスキル持ちは、スキル発動時点でレベル20以上はあるのだ。 死ぬほどの努力や、超教えるのが上手い師匠に巡り合えば1流になれる可能性もあるが、その確率はかなり低い。 だいたい、師匠なんかは弟子を奴隷みたいにこき使うほうが多いし。 「ナイン、手品師で食べていける?」と、母親。 「まあ、贅沢しなければ何とかなるかと思うけど」 「え? 兄ちゃん、貧乏になるの?」 「兄ちゃん、私のお小遣いは?」 「僕のお小遣い」 (いや、お前らのお小遣いとか知らんし。少ないながら親にもらってるだろうが) 「お小遣いか。そうだな。手品師として一人前になったらな」 「いつ?」 「どこで?」 「まあ……3年くらい?」 「どこで修行するの?」 (修行か) こっちの世界には会社という概念がなく、家業か親方に弟子入りして独立するのが一般的なのだ。 公務員か自営業の二択って感じ。 「修業は……隣のイリー市かな」 俺が住んでいる町にも手品師はいるのだが、その手品師の息子と学校で俺は同級生だった。 そいつは嫌なやつで、俺は喧嘩したこともあるから、その手品師に弟子入りは考えたくもない。 「兄ちゃん、家出するの?」 「えー! 家出は駄目だよ」 「いや、家出じゃなくて修業だから」 「ナイン、本当に1人で大丈夫?」 「まあ、たぶん」 「お前が本気なら父さんは止めない」 「うん」 (レベル99だし。スキルについてよく分からないけど何とかなるだろ) 俺が住む国では14歳までが義務教育で、卒業したら15歳の誕生日まで自宅待機でスキル発動の儀式を待つのだ。 15歳から成人なので、どこへ行こうが何をしようが基本的に自由になっている。 隣りのイリー市へ修行へ行く事になった俺。誕生日会が送別会にもなってしまった。 「ナイン、酒は飲みすぎるなよ」 「うん」 15歳だけど成人しているから酒を飲んでも合法だ。 「ナイン、いじめとかされたら我慢せずに帰ってきていいからね」 「うん、母さん」 家族は俺のことを心配しているが、俺は前世では将棋のプロ棋士で19歳だったし、東京で一人暮らしをしていた。 こっちの転生先でも15年間生きてるし。異世界転移じゃなくて転生だから、こっちのことも義務教育でだいたいのことは知っている。 だから、大丈夫だろ? 俺の送別会がお開きになり、やっと俺は1人で静かに自分のスキルの詳細を確認することができるようになった。 ステータスは集中しないと見れないのだ。 さて、確認するか。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!