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俺は前世で友人と呼べる友人なんていなかった。5歳からずっと将棋ばかりしていたし、友達と遊ぶ暇などなかった。小学生にもなると同級生とかで俺とまともに将棋できる奴もいなかったし。 転生したこっちの世界でも、俺は友人を作らなかった。俺と話が合う奴がいなかったからだ。 だから、俺がイリー市へ修業へ立つ日も家族や親族以外は見送りに来なかった。まあ、当たり前だが。 「兄ちゃん、やっぱり友達いないんだ」 「兄ちゃん、かわいそう」 「兄ちゃん、どんまい」 「お、おう」 いや、別に俺は寂しいとか全く思ってないからな。 そんな家族たちに見送られ、俺は結界水晶馬車に乗って生まれ育った町から出立したのだった。 馬車に乗った客は俺を含めて5人。この町に来る前から乗っていた人たちが10人いたから、客は15人だ。 前には御者と見張り。後ろには警備が2人。 総勢19人が乗っているが、馬車は1頭の馬が引いている。 結界水晶の力で、軽い力で馬車は動くらしい。 何なら、道中で馬が倒れたとかした場合でも、警備1人で馬車を引けるらしい。 便利な水晶だな。どうやって作るのか知らないが。俺も結界水晶を作れる能力を設定したら大金持ちになれる。レベル99の水晶を作れるし。 しかし、それをやると目立ちすぎだ。やるとしても、俺が簡単には利用されない立場になってからだな。 そんな便利な結界水晶だが、盗難とかは滅多にない。 結界水晶は基本的に結界師でしか持ち運びできないからだ。 まあ、やろうと思えば結界水晶を盗む裏技が有るらしいが、費用やリスクが高すぎて割が合わないそうだ。 そんなことを考えていたら、隣に座っている奴に声をかけられた。 「なあ、君はどこまで?」 哲学的な質問だな。 「どこまでとは?」 「行き先」 「個人情報なので」 「あ?」 こいつ、個人情報保護法も知らんのか? あ、ここは異世界だったな。 「いえ、両親に知らない人からの質問には答えなくて良いと言われてますから」 「はっ、ガキかよ」 イラッとする奴だな。 俺のスキル能力の悪い奴バリアは効いてないのか? バリアが本当に使えてるとしたら、こいつは悪い奴ではないということになるのだが。 とりあえず無視して、俺は馬車に揺られながら考える。 元棋士だから、考えることは大好きなのだ。 将棋の棋士だった頃、俺の指す将棋は一部の将棋ファンから「魔法みたいな手だ」とかよく言われていた。 普通の棋士が普通は指さない手で勝つことが多かったから。 だから、若い将棋ファンからは「マジックハンド」と呼ばれることもあった。 だからか。 異世界転生して得たスキルが【マジックハンド】なのは。 魔法の手かと思ったが、魔法みたいな手を使えるという比喩的なものなんだろうな。 将棋といえば、将棋を指したいものだ。 こちらの異世界にも囲碁やチェスみたいな遊びはあるのだが、将棋みたいなものはない。 俺のスキルで将棋の道具を作ろうか。 まあ、仕事を見つけて生活が安定してからになるが。 仕事か。手品師に弟子入りしようかと思っていたが。 ……無理だな。 俺は人から命令されるとか大嫌いだから。 師匠とかに偉そうに命令されたらキレてキレて喧嘩になるだろう。 うーん。 屋台でもやるしかないか。 マジックハンドなら、美味い料理くらい余裕で作れるだろ。何しろレベル99だしな。 美味すぎてビックリされるかもしれない。 しかしだ、屋台を開く資金をどうするか。 俺の手持ちは、子供の頃から貯金していた10万カルくらい。日本円にして10万円くらいだ。 10万カルで屋台って開けるのか?  
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