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「レイちゃん、こちらはナインくん。料理人スキル持ちでレベル29らしいの」
「なるほどです」
いや、料理人スキルなんて言ってないが。
いや、屋台をしたいと言ったからか。
しかし、レイちゃんか。若いな。
いや、俺も若いんだが。
「ナインくん、レイちゃんはレベル29のスキル鑑定士なのよ」
「はあ」
で?
「レベル30超えで王都に取られなくて助かったわ」
「はあ」
知らんがな。
「では、鑑定します」
「お願いね」
「はい。ナインさん、右手を」
「右手を?」
「私と握手して」
「はい」
なるほど。握手したら相手のスキルが分かるのか。
「ふえっ!?」
「え?」
レイちゃんは、ビックリしたように俺の手を離した。
「どうしたの? レイちゃん」
「あ、いえ、その……あ、はい。確かに料理人スキルでレベル29ですね」
「レイちゃん、大丈夫?」
「あ、大丈夫です」
「なら、いいけど」
こいつ、俺のスキル読めてないだろ。どうして嘘をつくんだ? 読めなかったら恥ずかしいのか? 怒られるのか?
「あの、念のためにもう1回、確認しても」
「あら、そうね」
「ナインさん、お願いします」
「はあ」
俺はレイちゃんと握手した。
「ギャッ!!」
「レイちゃん!?」
「え?」
レイちゃんは白目をむいて倒れた。
「あんた! レイちゃんに何をしたの!」
「は? え? いや、何もしてない」
「じゃあ、これは何なのよ!」
「いや、俺も何がなんだか」
「手を離しなさい!」
「あ、はい」
レイちゃんと手を離した。
騒然とする市役所。
「……ん、あれ?」
「レイちゃん! 大丈夫なの?」
「あ……すみません」
「大丈夫?」
「あ、はい」
「こいつに何かされたの?」
おい、こいつって。
「あ、いえ、何かしたのは私」
「え?」
「あ、何もされてません」
こいつ、俺に何か悪いことをしようとしたんだな。俺の悪い奴バリアが発動したんだろう。
ちゃんと発動するんだ。良かった。
「レイちゃん、顔色が悪いわよ」
「あ、はい」
「少し休んできて」
「すみません、失礼します」
「いいのよ」
レイちゃんはどっかに行った。
「君、本当に何もしてないのよね?」
「してません」
いや、したのはレイちゃんだと思うが。
「怪しいけど……まあ、今回は信用しておくわ」
「ありがとうございます」
「じゃあ、行くわよ」
「どこへ?」
「料理人組合」
「あ、はい」
どうやら、相談員のおばさんが俺の世話をしてくれるらしい。
それから俺は料理人組合へ行き、市役所の相談員おばさんのおかげで、すんなりと屋台を出せることになった。
宿泊する宿も、相談員おばさんが手配してくれた。
「相談員さん、ありがとうございました」
「これが仕事だしね。儲けて税金をたくさん払ってね」
「頑張ります」
「私のボーナスが増えるから」
「……なるほど」
相談員おばさんは手を振って市役所へ帰っていった。
今日は朝早くから馬車に乗り、いろいろとあったんだが、まったく疲れてない。
俺がレベル99だからなのか?
ちょっと市内を散策でもするか。
宿の部屋に荷物を置き、俺は散歩することにした。
しばらく散策したが、宿に晩ごはんを頼んでいたから宿へ帰ると、レイちゃんが宿の表に立っていた。
『ちょっと話があるんだけど』
『俺はないけどな』
『やっぱり日本人ね』
『ん? あ』
レイちゃん、日本語だ。つい俺も日本語を使っていたな。
『私も転生者なのよ』
『私もって、俺が転生者だと思うのか?』
『違うの?』
『そうだけど』
『部屋で話したいんだけど』
『部屋って、どこの』
『君の』
『俺の部屋にって、君と二人きりで?』
『そうよ』
『いや、身も知らずの奴と二人きりは』
『マジックハンド、レベル99の魔法使いなのに、女の私が怖いの?」
『君のスキルとレベルを知らないから』
『鑑定士でレベルは99よ』
『ん? スキル鑑定士じゃなくて鑑定士ってことは、何でも鑑定できる?』
『頭いいわね。何でもじゃないけど、だいたいのことは鑑定できるわ」
『なるほど。転生チートか』
『君もね』
『まあな』
『前世での年齢は?』
『19』
『あら、私も』
『タメか』
『そうね』
『もう、俺に何かやろうとするなよ』
『分かってるわよ』
やはり、何かしたのか。
『しかしだな、急に服とか破いて「襲われた」とかされてもな』
『……レベル99の魔法使いに、そんなことをしないわよ』
『分かった』
俺の部屋にレイちゃんを案内した。
『で、目的は何だ?』
『ナイン、ナインって呼ぶわよ』
『いいけど』
『ナインは将棋、指せる?』
『将棋か。まあ、そこそこ』
『私と勝負して』
『で、何を賭けるんだ?』
『鋭いわね』
『まあな』
『私に負けたら、私の子分になって』
『子分?』
『そう。レベル99の魔法使いが子分なら、私はこの世界でほぼ無敵よ』
『無敵になりたいのか?』
『こっちの世界でも、女は男に馬鹿にされるのよ』
『そうかな?』
『同じレベルなら、女は男に勝てないの。社会的にね』
『まあ、そうかもな』
『それに、私は攻撃も防御もスキルがないから。ナインが私を守って』
『俺が将棋で負けたとして、約束を守ると思うのか?』
『約束を守らないと、ナインのスキル偽証を公表するわよ』
『お前だってしてるだろ』
『私は自由にスキルのステータスを変えれるの』
『なるほど』
俺もできるけど。
『じゃあ、やるわよ』
『やるわよって、将棋の駒とか』
『持ってるから』
『持ってる?』
『作ったの』
『暇なのか?』
『作ってあるのよ』
『なるほど』
レイちゃんは、袋から将棋の板と駒を出した。
駒の文字は、こっちの字になっている。
王と玉は、龍と竜になっている。
『龍と竜?』
『この駒を見られたら、王って不敬だし』
『まあ、そうだな』
『先手、どうぞ』
『いや、振り駒する』
『まあ、いいけど』
振り駒の結果、俺は後手になった。
『あらあら。お願いします』
『お願いします』
あらあらって、何だよ。
30手、進んだ。
(こいつ、強いな。元女流棋士か?)
レイちゃんは、俺の指し手に明らかに戸惑っている。
『……負けました』
78手目。レイちゃんが投了した。
『ありがとうございました』
『あの……もしかして、金子五段?』
まあ、この指し手ならバレるよな。
『まあ、うん』
『えええ!? ほ、本当に、か、か、金子五段!?』
『そうだけど』
『キャー!』
『うわっ!』
レイちゃんに抱きつかれた。
『ずっと好きでした!』
『え?』
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