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レイちゃんは、前世では将棋の女流棋士だった。
『流山里美、知ってます?』
『ながれやま女流……流山……あ、何となく』
『何となく……』
『あ、ごめん』
『いえ、いいんです』
『で、流山さんは』
『レイでいいです』
『レイちゃんは、どんなかんじで転生したの?』
『異世界転生トラックにやられました』
『なるほど。俺も』
『金子さんも』
『ナインでいいよ』
『とんでもないです!』
『いいから』
『いいんですか?』
『うん』
『でへへ。相思相愛?』
『え?』
『あ、いえ。あの、もしかして』
『え?』
『ナインさんをやったのも私をやったトラックですかね?』
『えっと……もしかして、龍王挑決第二戦の日?』
『あ、そうです。龍王挑戦おめでとうございます』
『ありがとう。もう挑戦できないけど』
『あ』
『あの日、将棋会館の近くにいたの?』
『はい。金子五段に龍王挑戦プレゼントを渡そうと将棋会館へ急いでいたら』
『転生トラックにやられたと』
『やられちゃいました』
『俺の後かな?』
『ですかね』
あの事故で俺の他にも死んだ人がいたんだな。
『で、レイちゃんは俺の子分になるのか?』
『へ?』
『俺に負けただろ』
『あ、子分よりも奥さんが』
『子分だな』
『……はい』
『俺には夢がある』
『夢?』
『この国で将棋ブームを巻き起こし、タイトル戦の龍王戦をやりたい』
『おお! 師匠、やりましょう!』
『うん。師匠?』
『師匠です』
『まあ、そうなるのか?』
『なりますとも』
『まあ、子分でも弟子でもどっちでもいいけど』
『はい』
俺は異世界で弟子ができた。
『で、どうしてレイちゃんはレベルを嘘ついてんだ?』
『だって、15歳でレベル99って、秘密組織とかに人体実験とかされません?』
『いや、知らんけど』
『優秀な子供を産めとかって、王族の愛人にされたりとか』
『なるほど。それは有りそうだな』
『ですよね』
『だから、レベル29のスキル鑑定士か』
『はい。調べられても大丈夫なように、ちゃんとこの国の言語で、瞬時にステータスを書き換えできます』
『なるほど。しかし、だいたいのものを鑑定できるとして、役に立つのか?』
『そりゃあ、有りますよ』
『どんな?』
『相手が嘘を言ってないかとか、相手のウイークポイントとか、相手の貯金額とか、他にも色々』
『見ただけで?』
『いえ、接触しないと無理です』
『微妙だな』
『まあ、ですね。分かったからと言っても、私は攻撃も防御もできませんし』
『まあ、レイちゃんは俺の弟子になったからな。これからは俺が守ってやるよ』
『ふ、ふえっ!? プ、プ、プロポーズ!?』
『ちげえよ。あくまで師匠としてだ』
『と、言いつつ』
『言いつつも悪いつつもない』
『今は、そういう事にしときます』
『とりあえず、俺は屋台で金を稼ぐ』
『あ、手伝います』
『いやいや』
『いやいや?』
『普通に公務員をやってろよ』
『どうして?』
『レイちゃん、家族はいるんだろ?』
『……ううっ……お母さん……』
レイちゃんが泣き出した。
『あ、すまん。もしかして、孤児なのか?』
『ぐすっ……すみません。いえ、前世のお母さんを思い出して』
『そうか。こっちの親は?』
『元気です』
『なら、こっちの親が変に思うだろ』
『何を?』
『ふらっとイロ町からやってきた15歳の男がやる屋台をだな、突然に手伝うとか』
『あ、そうかも』
『俺がちゃんとした店を持って、ある程度成功したら雇ってやるよ』
『でも、それだと私を守れませんよ?』
『……確かに』
レイちゃんを守ってやると約束してしまったが。どうしたもんだ。
『あ、私』
『ん?』
『触った相手のステータスとか記憶とか、書き換えれるんですよ』
『おいおい』
『あ、やったことはないですから』
『俺のステータスを変えようとしなかったか?』
『……あの、私の子分にしようかな〜とか?』
『俺の記憶の書き換えか?』
『すみませんでした!』
レイちゃんは綺麗な土下座をした。
『で、どこまで俺のステータスを見た?』
『スキル名とレベルだけ』
『なるほど』
なら、俺のスキルの詳しいことは分からなかったのか。俺を魔法使いと思っているし。
『君は短気か?』
『え?』
『すぐに怒って、俺の秘密をバラしたりしないだろうな?』
『しませんしません』
まあ、俺もステータスを自由に書き換えれるから心配は無用なんだが。
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