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どうやらレイちゃんは、家族の記憶を書き換えて、俺を命の恩人にしたいらしい。
「命の恩人の屋台を手伝うってか」
「はい」
「しかし、市役所勤務に危険なんかあるのか?」
「セクハラとかパワハラとかストーカーとか」
「されてるのか?」
「いいえ」
レイちゃんは可愛い系だが、ツルペタ体型だ。
一部のマニアには好まれるかもだが。
「どっちにしろ、実家では俺と別々なんだし」
「一緒に住んだら駄目ですか?」
「俺と?」
「はい」
「一緒に住む関係ではないだろ」
「師匠と弟子ですから」
「家族に俺を何の師匠だと説明するんだ?」
「あ」
「とりあえず、公務員をやっとけよ。俺もどうなるか分からんし」
「なら、市役所が休みの日だけ」
「公務員がアルバイトしていいのか?」
「やってる人、いますよ」
「そうか。まあ、俺は助かるが」
「頑張ります」
「料理は」
「え?」
「料理の腕は」
「できると思います?」
「知らんけど」
「はっきり言って、料理しないほうが良いレベルです」
「おいおい」
どんな自慢だよ。
「でも、料理は師匠が魔法でちゃちゃっと作るんですよね?」
「まあ、そうだな」
「なら、私はウエイトレスとか会計とかしますよ」
「屋台にウエイトレスは要らんが、会計は必要だな」
「メイドのほうが好きですか?」
「メイド服を持っているのか?」
「作ってもらいます」
「誰に」
「こっちのお母さんに」
「猫耳とかするなよ」
「駄目ですか?」
「メイド喫茶じゃないからな」
「あ、ゆくゆくはメイド喫茶を」
「メイド喫茶か。需要はあるのか?」
「あると思います」
「まあ、屋台で儲けてからだな」
「はい」
まあ、このイリー市で生まれ育ったレイちゃんが手伝ってくれるなら助かるかもな。
「じやあ、遅くなる前に帰れな」
「送ってくれます?」
「遠いのか?」
「この宿から歩いて1分くらいです」
「近いな」
「はい」
「レイちゃんの家族に会うと面倒だし、近くまでな」
「挨拶しないんですか?」
「まだ記憶操作してないだろ」
「あ、そうでした」
レイちゃんを家の近くまで送り、俺は宿で晩ごはんを食べた。
こっちの世界では、普通の家に風呂は滅多にない。
大きな宿とか、金持ちの家とかなら有るところはある。
俺が泊まっている宿には風呂はない。容器でお湯を買って、それで身体を拭くのが普通の宿での常識らしい。
俺もそうしようかと思ったが、【身体を常に清潔】の能力を追加した。
これで、俺の身体は常に清潔だな。
屋台で食べ物商売をするわけだし、清潔衛生が大切だ。
その日、俺は慣れない布団で……寝れない。
まったく疲れてないからか、初めての外泊
で興奮しているのか。
いや、前世では外泊はよくしていた。将棋のプロ棋士だったから。しかし、こっちの世界では外泊は初めてなのだ。
修学旅行とか合宿とか無かったし。
ステータスに【快眠】を追加するか。
快眠があるなら、快便も必要だな。
【快便】も追加した。
こっちの世界のトイレ事情だが、水洗トイレは見たことがない。王族とかなら使ってるかもだが。
一般家庭では、簡易トイレみたいな容器に用を足し、そこにトイレ石を入れる。トイレ石が排泄物を無臭の水に変えてくれるのだ。あとは水を捨てるだけ。
トイレ石も安くはないが、汲み取りや処理を考えたら簡単で助かる。
トイレ石を作るスキル持ちに感謝だな。
トイレ石の他には、照明になる灯り石や調理とかに使う火石とかがある。
それらは錬金師が作り、収入も良いスキルらしい。
病気を治すポーションを作る薬剤師や、外科治療をする治療師とかも稼げるスキルだ。
俺もそれらの仕事をしたら稼げるのだが、いかんせん、どれも師匠の元で最低5年は修業をしないと独立開業できない。
まあ、社会インフラや人の命に関わる仕事だから仕方ないのだが、弟子入りなんかしたくない俺には無理だろ。
さて、寝るか。
快眠スキルのおかげで、俺はすぐに寝た。
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