「コンビニの焼き鳥串、あと一本」から始まる恋

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「俺だってねえ! 図書館で手が触れ合って『あ……』とかいってさあ、お互いに譲り合う末に交際スタートなんて恋がしたかったよ!」 「出たよ。貞雄(さだお)の『高嶺の花症候群』が。そんなんだから、いつまで経ってもDTなんだよ」 「うるっせ! 大学デビューしてそうそう彼女できて社会人でゴールしたお前には、俺の気持ちなんて一生わかんねえんだ!」 「はいはい。オレにはわかんないよ。じゃあ、オレ帰るから。娘がグズったらしい」 「おう。引き止めて悪かったな。んじゃなー」  おそらく、彼とはもう二度と飲みに行かないだろう。  子連れを引き止めるのは、ぶっちゃけ気を使う。  ソロ飲みかー。つまんねえなー。  友達はみんーな、ヨメをもらってさー。  気がついたら、俺ひとりが、彼女なし。  家で飲み直すことにした。  宅飲みするなら、おしゃれな気取った店なんて選ぶ必要ないからな。  好きなものを好きなだけ食うか。  コンビニ行こっと。  ビールとツマミを買い込んで、あとは、焼き鳥の串さえあれば、完璧だな!  深夜〇時を迎えたからか、ホットスナックは、あと一本だけだ。    お、ネギマあるじゃん! ラッキ……。 「あれ……」  ホットスナックコーナーに、見知った女性が佇んでいた。  島原(しまばら) ゆきさんといって、同じ部署の「地味子さん」である。 「こんばんは。島原さん。こんな遅くに珍しいですね」  いけねえ。飲み過ぎなのバレバレじゃん!   もっと控えておけばよかった。  かっこ悪いなぁ。  といっても、島原さんとどうにかなるわけじゃないけど。   「あばば、どどど堂島(どうじま)くん!?」  なぜか、島原さんは慌てふためく。  レジ打ちしてもらっている大量のハイボールを、腕でワチャワチャと隠した。  ははーん。なるほどね。   「ココのネギマ、うまいっすよね」  さりげなく、話題をそらした。    俺はやればできる男なのだ。空気くらい読むさ。   「そうなんですよ。わたしも大好物で。帰りに買って家で飲むんだぁ」  レジ打ちの後、ネギマは島原さんの買い物袋の中へ。     ネギマよ、喜べ。  島原さんのお腹に収まることができるのだ。  こんな名誉なことはないぞー。 「あの、よかったらシェアしない?」 「え、いいの? やった」  おいおい、なにが「やった」だっての。  酒入っているからって、テンションアホすぎだろ。  しかし、勢いを止めることができなかった。  俺はてっきり、外の公園で外飲みするんだと思っていたのである。  外に出た途端、冷たい風が。  これでは、凍えてしまう。 「うちにおいでよ」 「え、そんな悪いよ」  俺の家も近い。  無理するほどでは。 「いいよ。堂島くんとは、じっくりお話したかったので」  そうなんだよな。  島原さんは、社内でマジメだと思っていた。  ちゃらんぽらんな俺なんかとは、飲んでくれないと思っていたのだ。     「なんかヤバそうになったら、いつでも追い出してくれたらいいから」 「追い出さないよ」  島原さんのアパートへ、お邪魔することに。  女性の部屋だー。  でもあまり女性らしさは感じないかなー?  別にいいけど。 「殺風景でしょ? ずっと男っ気のない生活をしてて」 「平気平気。そういうの気にしないから」 「じゃあ、シェアしちゃおっか。串から抜いたら怒るタイプ?」 「怒らないタイプー」 「よかった」  ネギマとその他ツマミを食いながら、話に花を咲かせる。 「わたしも、田舎の友達がどんどん結婚していってさ。焦ってる。そのうち同期もいなくなっちゃうねー」 「わかる。俺もヤバイ」 「でもなんでだろう? 堂島くんは話しやすいんだよね」 「そうなん? 俺も俺も」  なんだか、意気投合しているぞ。  会社ではロクに会話もなく、事務的な応対ばかりしているのに。  明日は休みとはいえ、さすがに酔いつぶれるのはまずい。  御暇することに。   「わたしさ、都会に越してからもずーっと男性とか苦手だったんだ。今日は、思い切って誘ってよかった」 「こちらこそ、誘ってくれてありがとー」  でもさ、と俺は問いかける。 「なんで、俺なんか誘ったの?」 「だって、ネギマ好きな女でも、幻滅しなかったでしょ?」 「ああ。おんなじモノが好きってのは最高だよな」 「そういうトコ」  んふふー、と、島原さんは顔をフニャッとさせた。 「あ、そうだ明日さ」 「ん?」 「明日はさ、堂島くんチで飲んでいい?」 「喜んで! ツマミはやっぱり?」 「もちろん、コンビニのネギマで」
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