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「いや、顔を洗って完全に目が覚めたら……って可能性はないよね……」
我ながら往生際の悪い自分に自嘲し、洗面所へと向かう。
しかし通過しようとしたリビングで信じられないものを見て、足が止まった。
「おはよう」
私に気づいた彼が、読んでいた新聞から顔を上げる。
「お、おはようって、なんであなたがここに……!」
オートロックだから鍵はかかっているはず。
そして部屋の鍵は確かに昨晩、テーブルの上に置いて寝た。
なのにどうして昨日の彼がここにいるの!?
「なんでって、今日は観光に連れていってやると約束しただろ」
私は怒っているというのに彼は平然と、また新聞へ視線を戻した。
「ほら、顔を洗ってこい。
準備が済んだら朝食を食べに行こう」
「昨日も言いましたけど、私はあなたのお世話になる気はこれっぽっちもないですから」
「いいから顔を洗ってこい。
僕は君が起きるのを待ちくたびれて、腹が減っているんだ」
「それはなんか、すみません……」
つい謝ったが、これは私が詫びなければいけないのか?
しかも彼の顔は新聞から上がらず、私のほうをちっとも見ない。
「あーもー、腹が減って死にそうだー」
わざとらしく言い、ようやく私の顔を見た彼は、右の口端だけをつり上げてニヤリと笑った。
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