第一章 挙式予定のハワイまできて式目前で彼と別れました

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「えっ、あ!?」 慌てて自分の鞄を確認するが、パスポートが見当たらない。 ついでに、財布も。 「ド、ドロボー!」 怒りで、わなわなと身体が震える。 「言いがかりだな。 付き合ってくれたら返すって言ってるだろ」 しかし涼しい顔で彼は、挑発するかのようにパスポートを揺らした。 「……なにが狙いですか?」 レンズ越しに真っ直ぐに、彼の細い目を見据える。 「なにが狙いって酷いな。 僕はただ、君をものにしたいだけだ」 彼の手が伸びてきて、頬に触れた。 「……僕は君が欲しい」 私を見つめる瞳は、艶やかに光っている。 それに捕らわれたかのように目は逸らせない。 「しかし、無理強いはしたくない」 ふっと淋しそうに笑い、彼が私から手を離す。 それで身体から力が抜けた。 「だから君がここにいる間、僕に堕ちてくれるように精一杯頑張るよ」 立ち上がる彼を黙って見上げる。 この人はどうして、そこまで私に拘るのだろう。 ただの、行きずりの女に。 「ほら、朝食を食べに行くぞ。 僕は腹が減ってると言っただろ」 彼が私に向かって手を差し出してくる。 その手を無言で見つめた。 夫になるはずだった男と別れた翌日に、違う男の手を取るほど軽い女ではない。 けれど彼には一宿の恩がある。
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