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眼鏡の奥で目を細めて笑った彼はどこか淋しそうで胸がずきんと痛んだが、気づかないフリをした。
朝食のあとは荷物の整理をし、和家さんに空港まで送ってもらった。
まだ時間があるのでカフェでお茶を飲む。
「あの、本当にホテル代とかよかったんですか……?」
結局、最後まで私は一切お金を使っていない。
とはいえ、あのスイートの宿泊費全額は払えそうにないが。
「李依がこうして明るく笑ってくれるためのお金なら、安いもんだ」
和家さんは笑っているばかりでまともに取り合ってくれなかった。
申し訳ないという気持ちはあるが、いくら言っても彼は聞いてくれない。
ならば。
「その。
せめて、なにかお礼をさせてください」
じっとレンズ越しに彼の目を見つめた。
「じゃあ……李依からキス、してくれるか?」
私を見つめるその瞳は、私を試している。
……和家さんにキスをする?
そんなの……。
「別に無理強いはしない」
返事を躊躇っていたら、ふっと和家さんの周りの空気が緩んだ。
「……あの。
いいんですが、ここでは」
これはお礼なのだ。
あれだけしてもらっていて断れるわけがない。
それに……彼との最後の思い出が欲しい。
「そうだな」
とりあえず同意してくれて、ほっとした。
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