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「その。
ハワイに着いた途端に、離婚して」
「うん」
口は勝手に開き、今の境遇をしゃべっていく。
それから、彼は相槌を打つ以外は黙って話を聞いてくれた。
「でも、これでよかったんだと思うんです。
もし、あのまま結婚していたらきっと、彼は幸せになれなかっただろうし。
私以外に幸せにしてくれる人が見つかったんなら、その人と結婚したほうがいいに決まってます。
彼が幸せになってくれたら、それでいいです」
これは、私の心からの気持ちだ。
これで彼が幸せになれるのなら、私は黙って身を引こう。
彼を幸せにできるのが私じゃなかったのは淋しいけれど。
「それでそいつは幸せになって、君は誰が幸せにしてくれるんだ?」
「……え?」
彼が幸せならそれでいい。
それ以外、考えなかった。
私が誰かに幸せにしてもらう?
「君がそいつの幸せを願い、自分の幸せを考えないというのなら。
このハワイにいる間だけでも、俺が幸せにしてやろう」
彼がいったい、なにを言っているのかわからない。
戸惑っているうちに車は豪華なホテルの玄関に止まっていた。
「降りろ」
「あっ」
追い出されるように車を降ろされる。
「こい」
どんどん歩いていく彼を慌てて追う。
すれ違うホテルスタッフのほぼ全員が、彼に頭を下げた。
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