第一章 挙式予定のハワイまできて式目前で彼と別れました

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ぐいっと唇を拭い、思いっきり睨みつける。 「そんな顔もできるんだな。 ますます気に入った」 しかし、彼にふふっとおかしそうに小さく笑っていて、まったく効いていなかった。 「この理由が気に入らないというのなら、今、君の唇を無理矢理奪った償いとしてハワイ滞在中の費用を僕がみてやる。 それならどうだ?」 どうだ?もなにも、レンズの向こうから私を見つめる瞳は、これで文句ないよなと有無を言わせない。 「なんでそこまで、私の面倒を見たがるんですか?」 出会ったのはつい少し前。 なのにどうして、ここまで彼がしてくれるのかわからない。 「君が気に入ったからだ。 それ以外に理由はない」 きっぱり言い切った彼は、いっそ清々しかった。 「だから僕は君を甘やかせたい。 君も僕に甘えればいい」 彼がどうしてそこまで私を気に入っているのか、やはりわからない。 ただ、私は身も心も疲れ切ってきて、今から安ホテルを探す気力がないのはわかる。 なら、今晩だけ。 今晩だけ、彼に甘えるのは許されるのでは? それに、騙されているならそれでもいいと思うほど、自暴自棄にもなっていた。 「じゃあ、今晩だけ。 お言葉に甘えてここに泊まらせていただきます。 明日にはホテルを探して出ていきますので」 彼に向かって頭を下げる。
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