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「今晩だけと言わず、ここにいる間ずっといればいい」
ふっと唇だけで彼は面白そうにふっと笑った。
「そういうわけにはいかないので」
「まだ断るのか。
いいねぇ。
さらに気に入った」
彼の美しい指先が私の顎を持ち上げ、視線を合わせさせる。
「僕は絶対に、君をものにしてみせる」
じっと私を見つめる瞳は、そのレンズがなければやけどしそうなほどに熱い。
なにが彼のそんなスイッチを押したのか考えるが、思い当たる節はなにもなかった。
「疲れているだろ?
今日はもうゆっくり休むといい。
明日は観光に連れていってやる」
ふっと笑った彼は、とても優しげに見えた。
おかげで心臓が、とくんと鼓動した。
「あの、だから」
彼が立ち上がり、スーツを整える。
「ああ、腹が減ってるよな。
ルームサービスでなんでも取るといい」
「それくらいは、自分でなんとかできます」
ドアに向かっていく彼を追う。
「だから、僕がこちらにいる間の費用、全部持つって言っているだろ」
「そこまでお世話になるわけには」
「ああもう、うるさいなっ」
いきなりぴたりと彼が足を止め、顔をぶつけそうになった。
くるりと振り返った彼が、私を見下ろす。
「まだガタガタ言うなら、そのうるさい唇塞いで、今度はベッドへ連れていくが?」
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