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「桃ちゃんがくれたちょっと高い紅茶、これいつか飲んでみようって思ってまだ飲めてなかったものなんだ」
「へえ〜! やったね森村ちゃん!」
檸檬はそう言ってみる香から紅茶を受け取りパッケージを確認すると「なんか見た目が本当に高そ〜」と口に出し隣に立つバッド君にも見せ始めた。
バッド君は檸檬から紅茶を受け取りチラリと紅茶に目を落とすと、爽やかな顔で「みる香ちゃんてほんと紅茶が好きなんだねえ」と言いながら紅茶を返却してくる。
みる香は正面に立つバッド君からそれを受け取るとそりゃあそうだよと言葉を返した。
そしてそこでみる香は思い出す。紅茶巡りの際に、みんなへのお土産を買い忘れてしまっていたことを。
前回、檸檬やバッド君たちに紅茶のお土産を買ってこようと考えていたみる香だったが、紅茶巡りの時間があまりにも楽しすぎてお土産の存在をすっかり忘れていたのだ。
残念ではあるが、そこでみる香は良案を思いついていた。
(次は檸檬ちゃん達を誘って紅茶巡りしたいな……確かみんな紅茶が嫌いな子はいなかったはず)
頭の中で想像をしてみる。
檸檬や桃田、星蘭子や莉唯のみんなで紅茶巡りを楽しみ、和気藹々とランチタイムを過ごす。なんて青春的な情景なのだろうか。
そんな事を考えていると三時間目の授業の予鈴が鳴り始め、自席から離れていた生徒達はバタバタと忙しなく自身の座席へと戻っていく。
そんな中、みる香も椅子に腰掛けるとふとある事を思い出していた。
(そういえば私……)
そう、これまでみる香はバッド君を友達として認識していなかった。
だからこそ初めて会話をした時もコミュ障の弊害は起きなかった。しかし最近のバッド君とは、ただの契約関係に思えない自分がいるのは紛れもない事実だった。
深いことまでは自分のことながらも理解できていなかったが、彼とは友達に近しい関係になっている。
それはみる香は勿論、周りにいる檸檬や桃田が見てもそう思うはずだ。
それくらい最近の二人の距離感は友達と呼ぶに相応しい雰囲気だった。しかしみる香は一つ気にしていることがあった。
(バッド君に、友達だと思ってる事……まだ言ってないや)
そもそも友達という関係に正式な申し出など、必要はないだろう。気がつけば友達。これが多くの友好関係で起こる自然な流れである。
それは分かっているのだが、バッド君にはきちんと友達という認識をみる香本人から表明したいという気持ちが強かった。それが何故かは分からない。
だが、バッド君に少なからず絆のようなものを感じ始めているみる香は、彼をただの契約者だと思っているのだとは思われたくなかった。
バッド君がみる香をどう思っているかは正直気にしていない。バッド君の性格はこの数ヶ月で理解できているつもりだ。
昇格を第一とする彼が、みる香を契約者以上の関係として関わってくることは想像できなかった。だから良いのだ。
(二学期までには、友達だって伝えよう)
こんな考えは独りよがりでバッド君からしたらはた迷惑かもしれない。
それでも、みる香はバッド君を友達として認識したい。一方通行でも構わなかった。
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