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第十九話『友達宣言』
期末テストは無事に終わり、みる香は解放感で満たされる。
今日テスト返却が終わればテスト関係とはおさらばだ。
そうすればみる香は晴れて自由の身と言っても過言ではないだろう。
「はあ〜、嬉しいなあ」
そう言いながら自席へ腰掛けると、早く到着したせいか生徒はみる香しかいないことに気がついた。これもなんだか開放感で気分が上がるものである。
そんな気分に浸っていると段々近づく足音が、C組の教室で止まったかと思えばすぐに教室内へと入ってきた。
みる香が顔を向けるとそれがバッド君であることに気がつく。
「みる香ちゃん、おはよう。今日はいつもより早いね」
相変わらず爽やかな笑みを向ける彼はそんな言葉で声をかけてくる。
「おはよバッド君、今日は早く目が覚めたから早めに来たよ」
そう言ってみる香はバッド君に小さな飴を手渡した。
「あげる。お腹空いたら食べて」
バッド君はみる香の伸ばした右手の下に自身の手の平を出すとみる香はそのまま飴を落とす。
以前にも一度あげたことのあるお気に入りの飴だ。友達に飴をあげるというのもみる香が好きな行動の一つだった。
飴を受け取ったバッド君はそのまま飴の包装を開き、丸い飴玉を口の中に入れる。
「あ、もう食べるの? じゃあ私も食べちゃおっかな」
そんな彼の様子を見て己も食べたくなってきたみる香は飴の包装を右手で開けてから口の中へ落とし込む。
ほうじ茶風味の味が口の中に広がり、幸せな気分がみる香の口内を支配した。
「みる香ちゃんありがと。君って紅茶が好きなのにお気に入りの飴はほうじ茶なんだねえ」
「え?」
そう言ってバッド君の方を不思議な顔で振り向く。
確かにお気に入りの飴なのだが、それを彼に話したのはもう随分前のことだ。そんな小さなことを、バッド君は覚えてくれていたのか。
そこまで考えてみる香はバッド君が覚えてくれていたことが嬉しいと感じている自分に気が付く。本当に、嬉しいと思えた。
「バッド君、よく覚えてるね。もうとっくに忘れちゃってると思ったよ」
みる香は素直に思った言葉を口に出すと彼は口元を緩めながら涼しげに笑う。そして再び口を開いた。
「あはは、俺記憶力には自信あるからね」
「それもそうか……」
バッド君の返答に説得力のあったみる香は納得した顔でバッド君をじっと見つめる。
おもむろに目が合うと彼は笑みを維持したままみる香を優しく見据えた。
そんなバッド君の視線が嫌ではなかったみる香は心の中でとある決意をした。
(今日の帰り、言おう)
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