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バッド君は瞬時にみる香の右腕を掴んでみる香は反射的に振り向く。
バッド君は振り向いたみる香の腕を離すとそのままいつもより真剣な眼差しでこちらを見据えてきた。
「みる香ちゃん、早とちりって分かる? そういうのは俺の態度じゃなくて言葉で、決めてほしいものだよ」
「…え?」
そう言ってバッド君の顔を見上げているみる香はすぐに彼と目が合う。
彼のいつもの余裕そうな瞳はどこか落ち着きがなくて、不安そうだ。こんなバッド君は初めてだった。
バッド君はそんな表情のままみる香を見つめて言葉を続ける。
「友達になりたいなんて初めて言われたけどさ、君に言われて俺、凄く嬉しかったよ。俺もみる香ちゃんと友達になりたいんだよね」
「えっ!?」
「だからさ」
そう言ってバッド君はみる香の前に自身の手を差し出した。
「俺と、友達になってくれるかな?」
バッド君は握手を求めている。それは分かる。だが頭の処理が追いつかない。
バッド君もみる香と友達になりたかっただなんて、思いもよらなかったからだ。みる香は嬉しい気持ちとまだ信じきれていない思いで頭が沸騰しそうになる。
そんなみる香を察したのかバッド君は笑いながら「ゆっくりでいいよ」とみる香の頭を優しく叩いた。
バッド君の表情はもうすでにいつもの彼の爽やかなものへと戻っている。
みる香はもう一度バッド君を見る。彼は確かにみる香に言った。友達になりたいのだと。嘘などとは、絶対に思えない台詞だった。
みる香は無言でバッド君が戻した左手を両手で掴み上げ、そのままぎゅっと握ると彼を見つめて声を出す。もう大丈夫そうだ。
「バッド君と友達になる! 私こそ、よろしくね!!」
そう告げるとバッド君は一瞬驚いた様子で、しかし直ぐににこやかに笑みを見せると「うん、こちらこそよろしくね」と爽やかな温かみのある笑顔でみる香の両手を握り返す。
気がつけば、バッド君も両手でみる香の手を包んでいた。
みる香は一時の時間が流れると急に気恥ずかしくなりバッド君の手から自分の手を離そうとする。
しかし彼の力は強く、痛いほどではないが振り解くのは困難だった。
みる香は顔を僅かに赤らめながら「手、もう離さない……?」と懇願すると彼は笑いながら手を解放してくれた。どうやら面白がっていたようだ。
二人は止まっていた足を動かすとそのまま歩道を歩き出す。
みる香はバッド君と友達になれた事実が嬉しく、気分が上がっていた。
「男の友達はバッド君が初めてだなあ」
そう言って彼の方へ視線を向けるとバッド君はニコリと優しげに笑みを向けてくれる。
「じゃあさ、みる香ちゃん」
「ん?」
バッド君は歩きながら口を開く。彼の調子はいつものように爽やかで涼しげで、しかしいつもなら絶対に言わないような発言が繰り出されてきた。
「夏休み二人で遊びに行こうよ、友達だしさ」
「え!?」
予想もしていない……いや、そこまでまだ考えを巡らせられていなかったみる香は彼の突然の誘いに驚きを隠せずにいた。
第十九話『友達宣言』終
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