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第二十話『本音』
翌朝になるとみる香は布団の上で思考を巡らせる。
今日は終業式だ。しかしいつもより早く目覚めたみる香は布団から出ることなく、昨日の会話を思い出していた。
――――――『ナツヤスミフタリデアソビニイコウヨ、トモダチダシサ』
昨日バッド君と友達になることが出来たみる香はこの彼の台詞になんらおかしな点などない事を理解している。友達なのだから出掛けるのは普通だろう。
だが、檸檬や桃田達に対する気持ちとバッド君に対する気持ちが数ミリほど違う気がするのは何故なのだろうか。それが分からなかった。
友達なのだからバッド君と出掛けても構わないだろう。しかし言葉にし難い違和感がどうしても今のみる香には拭いきれなかった。
「……ん? あれ、待って」
そこでみる香は気が付く。やはりバッド君と出掛けるのはなしだ。
そう決意を固めると瞬時に布団から飛び出し、支度を始めた。
「昨日のお誘いだけど、断らせてもらうね」
「え?」
みる香は終業式が終わり、放課後になるとバッド君を呼び止め教室内で断りの台詞を口に出す。
バッド君は急な断りに驚いた様子を見せた。
しかしみる香はその言葉を言い終えるとバッド君に手を振ってじゃあまたと自席に戻り机に置かれた鞄を肩にかける。
するとバッド君は「みる香ちゃん」と背後から困惑の声を出してきた。
「急にどうしたの? 昨日はいいって言ってくれてたと思うんだけど」
みる香は彼の方へ身体を向けると人差し指をバッド君の顔の前に突き立てた。
「前に言ってたじゃん、男と女が二人で出掛けるのはデートだって! バッド君が言ってたんだよ?」
そう、以前久々原からデートの誘いを受けた時にバッド君に言われたことだ。
それにみる香も久々原との一件から男女二人での外出は遠慮しようと思うようになっていた。
だというのにバッド君と二人きりで出掛けるだなんて、今のみる香には断る他なかった。
昨日は頭からすっかり抜けていたが、今朝思い出したことでみる香の気持ちは固まっていた。
「それに私もあの時懲りたんだよ、その気もないのに出掛けるのは良くないって。だからバッド君とは遊びに行かないよ」
勿論バッド君がみる香を異性として誘っているとは到底思ってもいない。みる香だってその気はない。
だが、男女である以上は二人きりで出掛けるのは躊躇われた。前回の経験が大きかったのだ。
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