第二十一話『夏休みの約束』

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「いや〜、餌やりの時間確認してて良かったよ。嘘つくのはリスクが高いからねえ」  そんな事を涼しげな顔で言いながらバッド君はアライグマの餌やりを楽しそうに見ている。  みる香も可愛らしいアライグマの餌やりを見るのだが、頭の中はアライグマよりも先ほどの出来事で埋め尽くされてた。 「バッド君なんで餌やり見る約束なんて嘘ついたの? そんなの約束してないし、それにあのまま話してても良かったのに」  餌やりが行われるのは本当だったが、バッド君と一緒に見る約束をした覚えは全くなかった。  みる香は訝しげな顔でバッド君を見上げる。  するとバッド君はアライグマの餌やりからは目を離して頬杖をつきながらみる香の方をじっと見つめてくるとそのまま言葉を発した。 「みる香ちゃんと遊びに来てるのに、君がいないんじゃ意味ないよ。俺は今日、みる香ちゃんと友好を深めるために君を誘ったんだからさ」  そう言ってそっとみる香の頬に触れてくる。  ドキッという音がどこからか聞こえてくるが、みる香にはその音の正体は分からない。  バッド君は優しくみる香の頬から手を離すと小さな食べかすを指で持ち上げ、柔らかい顔で見せてくる。これは、恥ずかしいどころではない。 「わっき、気づかなかった……! アリガト!!」  そう言って真っ赤な顔で下を向くみる香をバッド君は笑いながら見つめてくる。  この状況こそ穴があったら入りたい気分だ。 「さっきは嫌な思いさせちゃってごめんね、抜け出すタイミングを待ってたんだけど先にみる香ちゃんに言わせちゃったよね」  先ほどの八人の女の子の事を言っているのだろう。バッド君が呼び出したわけでもないのだから謝る必要はない。  みる香は気にしてないと正直に気持ちを伝えると彼はまた柔らかい笑みでみる香を見据えてきた。  みる香はその彼の瞳で鼓動が速くなる。鼓動が速まる要因は、彼が男友達だからなのだろうか。それが檸檬や桃田達に感じるものとの違いなのだろうか。  しかしそれらの疑問は、知りたいような知りたくないような、そんな矛盾した感情で溢れてた。 第二十一話『夏休みの約束』終                 next→第二十二話
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