第二十二話『涙を拭う』

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 集合場所の公園まで足を運ぶと既に桃田とバッド君の姿があった。みる香は小走りで二人の元へ駆け寄るとみる香に気づいたバッド君が手を上げて爽やかな笑みを向けてくる、と思ったのも束の間、彼は瞬時に残念そうに眉根を下げるとこんな言葉を口にした。 「みる香ちゃん……何で浴衣じゃないの…?」 「え」  その反応は何なのだろう。バッド君は分かりやすく肩を落として沈んでいる。謎すぎるバッド君の言動に訝しげな視線を向けていると横から桃田が声を発してきた。 「あんたが事前に言わないからよ。言ってたら着てきたでしょうに」 「それはそう……」 「何でそんなに浴衣にこだわるの? 変なの」  みる香はそんなやり取りをする二人に率直な意見を投げる。  すると桃田は肩をすくませながら「こいつは女の子の浴衣が見たいだけなのよ」とバッド君を呆れ顔で見る。  みる香はその言葉だけで納得をしていた。プレイボーイな男というのは困ったものである。  それにしても、バッド君にとって全く好みでもないみる香の浴衣姿を見たいだなんて変な話だ。  そう思ったみる香はもう一度バッド君に訝しげな目線を送りつけた。変な期待をしないでほしい。 「今日って花火も上がるんだよね〜! 楽しみだなあ」  みる香はそう言って話を切り替えると桃田の手を引いて行こう! と祭りの中へ歩き出す。桃田はスタイリッシュな私服姿でまるでモデルのような格好良さだった。  みる香は夏祭りだからと今日も歩きやすい格好で外出をしていた。バッド君をふと見ると彼も様になった格好をしている。元々顔立ちも良いバッド君は私服姿も見事に着こなしていた。  あまり意識したことがなかったが、今日はそんな事に視線がいく。夏祭りで気分が高揚しているせいなのかもしれない。  檸檬や星蘭子、莉唯には声をかけたのだが、当日ということもあり予定があると断られてしまった。それもそうだろう。みる香は暇人だったからこそ来れたものの、もう少し早めに誘ってほしいものだ。後でバッド君に言っておこうと考えていると突然「みる香ちゃん」という声が聞こえた。 「楽しいのはわかるけど、ちょっとペース落として」 「あっ」  振り返ったみる香は人混みの中みる香を追いかけるバッド君の姿を見つける。確かに周りが見えていなかった。  急いでバッド君の元へ戻ろうとすると桃田の姿がないことに気がつく。先程まで手を繋いでいたはずなのだが。人混みで離れてしまったようだ。
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