第二十二話『涙を拭う』

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「バッド君、桃ちゃんとはぐれた……」  みる香は青ざめた様子でそう告げるとバッド君は笑いながらみる香に言葉を返した。 「あはは、大丈夫。そこのフランクフルト買いに行ってるよ」 「えっ、あ、本当だ!!」  バッド君に指された方角を見ると桃田は確かにフランクフルトと書かれた屋台に並んでいる最中だ。桃ちゃん! と声をあげそのまま桃田の方へ行こうとするとみる香の肩に大きな手が置かれ引き止められる。バッド君だ。 「あそこは人が多いし、ちょっとこっちで待っていようか」 「あ……そうだね」  みる香はバッド君に促され屋台のない木陰に足を向ける。桃田にはレインをしておこうとスマホを操作していると今いる場所の名称に悩んだ。  バッド君に聞いてみようと顔を上げると意外にも彼の顔が近いことに気がつく。バッド君はみる香の視線に気づいたのか「どうしたの?」と不思議そうにみる香を見下ろすと彼の影が自身の身体を埋め尽くしているこの状況にみる香の動悸は激しくなった。 「……あ、そ、その…」  真っ赤に染まったみる香の顔をバッド君は不思議な顔で見つめる。 「ち、近い……」 「ああ、ごめんごめん」  みる香が赤面した理由に気付いたバッド君は笑いながらみる香との距離をとった。その距離感にみる香はホッとしながらまだ赤いままの頬を俯かせた。 「桃ちゃんに大きな木があるとこって言ったけど分かるかな……」  不思議な空気感に耐えきれなかったみる香はそんな言葉を口に出す。するとバッド君はそんなみる香を離れた距離から見つめ、こんな言葉を口にした。 「みる香ちゃんて免疫がないからすぐ赤くなるんだね」 「え」 「可愛いね」 「なっ」  予想することなど一度もなかったその言葉にみる香は動揺する。バッド君からみる香に対してそんな言葉が放たれるなど、想定外である。 「プ、プレイボーイなバッド君に言われても嬉しくないよ!」  みる香はそう言って彼の言葉を否定した。顔は未だに赤いままだ。それどころか、今の言葉で更に赤みは増している。しかし彼は笑いながらみる香の返答に反応を見せる。 「あはは、痛いとこついてくるねえ〜」  周りはガヤガヤと騒がしく、桃田がまだ来る様子はない。バッド君が変な事を言うせいでみる香は二人きりでいるこの状況をどうにかしたいと思い始めていた。  早く桃田が戻ってこないかと、そんな願いを心の中で唱えているとバッド君は横目でみる香に視線を向けながらこんな言葉を口にする。 「じゃあ俺が遊び人じゃなかったら、嬉しいって思ってくれるのかな?」 「え?」
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