第二十四話『新学期』

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* * * 「何なのよ、急に呼び出したと思ったらため息ばかりついて。私暇じゃないんだけど」  屋上に呼び出された桃田は腕を組みながら不服な顔をして床に座る半藤を見下ろした。半藤は頭を抱えるような体勢で顔を下に向けながらボソッと呟くように言葉を漏らす。 「……この間みる香ちゃんと宿題会してさ、すごく楽しかったんだけど…………はあ……」 「はあ? 何? 自慢したいの? 楽しかったくせに何よそのため息」  桃田は苛立った様子で半藤に遠慮のない言葉をぶつける。そんな桃田の言葉に半藤は言葉を返した。 「…言われたんだ、あの子に……来年のこと」 「は?」 「来年だよ……来年、みる香ちゃんは俺等の事……」  そこまで言いかけて半藤はもう一度大きなため息を吐いた。分かってはいてもそれ以上言葉を口に出すことは憚られた。桃田は黙りこくった半藤には目を向けず再び口を開く。 「だからそろそろ言いなさいよ、自分の気持ちが分かったら言うんじゃなかったの?」  その桃田の言葉で半藤は顔を上げる。そしてそのまま正面を見据え、言葉を返した。 「言わないよ」 「は!? ちょっとそれは規則違反よっ!?」  驚いた様子で半藤を見た桃田は何を考えてるのと半藤に訴えかける。しかし半藤は至って冷静だった。 「規則違反なのはだろ? 最後にはきちんと言うつもりだよ。だけど、契約の最終日までは言わない」  その答えを聞いた桃田は呆れながら再びほどいていた腕を組み直す。そしてもう一度半藤に向かって言葉を投げた。 「異例中の異例よそれ……本来は契約した日に言うべきなのに…どうして最後まで黙ってるつもりなのよ?」 「うん、だってさ」  桃田の発言は最もだ。半藤もあの説明をここまで先延ばしにするのは初めてだった。しかし桃田の言う通り、半藤にとって今回こそが異例なのだ。半藤は言いかけた言葉の続きを口に出す。 「知ったらみる香ちゃんは悲しむでしょ。それならギリギリのところまで、知らないで欲しいんだ」 「そんなの……あんたのエゴよ」 「はは……そうかもね」  そう言って半藤は空を見上げる。天気はこれでもかと言うほどに快晴であるのに、ちっとも気分は良くなかった。 「でもみる香ちゃんが辛いのは嫌だよ」  沈黙した二人の空間を休み時間の終了を告げる予鈴だけが五月蝿く鳴り響いていた。 * * *
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