第二十四話『新学期』

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 文化祭の出し物は飲食店に決定した。女子は可愛らしいメイド服を、男子は執事の衣装を制服として身に纏いおもてなしする喫茶店だ。飲食店に決まった時は、みる香も想像が膨らみ、友達と楽しく文化祭を過ごすイメージが湧き始めていた。 (楽しみだな)  文化祭の準備でしばらくは忙しくなりそうだが、忙しくなることに不満は全くなかった。文化祭という大きなイベントに気持ちが昂っていた。  放課後になると早速文化祭の準備は始まった。クラスメイト達は部活のない生徒に残るよう声をかけ、買い出し組や内装組、外装組と各自割り振られた役割に取りかかり始める。みる香は内装に任命され、実行委員の指示に従っていた。檸檬は部活で今日は一緒に準備ができなかったが、不思議と不安はなかった。そう思えるということは、前よりは自分も成長しているのかもしれない。そう思えることが嬉しかった。 (まあ話せる人はいないんだけど……)  とはいえ、クラス内でみる香が話をするのは檸檬とバッド君だけだった。黙々と作業をするのはみる香の予想通りである。 (いや、でも……)  誰かに話しかけてみようか。そんな気が起きているのはみる香の間違いようのない変化の証だ。別にいざこざがあったわけではないのだから、このような機会に話しかけるのは変な話でもないだろう。 「あの……文化祭、楽しみだね」  みる香は隣で同じく黙々と作業をしていた一人の女子学生に話しかけた。すると彼女はかけていた眼鏡をくいっと掛け直すと「ね、既に文化祭テンションだよ」と言葉を返してくれた。  クラスの中心グループともよく会話をしているこの女子学生――飯島颯良々(いいじま さらら)はみる香が突然話しかけても全く嫌な顔をせずに声を返してくれる。みる香は勇気を出して良かったと心から思った。これこそが俗に言う文化祭マジックというものかもしれない。  その後も作業が続く中、飯島とは色々と話を続けていた。みる香から質問をすることもあれば、彼女の方から何かを聞いてくれることもあり、充実した時間を送っていた。雑談をしながら作業を続けているといつの間にか最終下校のアナウンスが流れ始める。 「お疲れー」 「お疲れ! また明日も頑張ろうね」  みる香に声をかけてから教室を出ようとする飯島にそう言葉を返すと彼女は笑みを向けながら頷き、教室を後にした。それだけでも十分だった。 (まだ友達……とはいかなくても楽しかったな。色んな話できた)
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