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「書き置きは何で? ていうか事前に教えてくれればよかったのに」
「ああ、何となく。書き置きってテレパシーと違ってちょっとドキドキしない?」
なんて呆れたことを言ってくる。彼がみる香を呼び出した理由は文化祭の話をしようと思っていたかららしい。中庭でみる香を待っていたら急にあの女子学生が現れ、帰るに帰れなかったのだと。みる香の動向が分からなかったのも彼女から逃げる隙を目論んでいたからのようだった。それは何だか珍しい展開だった。
「普段女の子をたらし込んでるから、そういう目に遭うんだよ。これに懲りたら恋愛に関しての考え方を改めたらどう?」
そう彼に助言してみるとバッド君は小さな声でボソッと呟く。
「……その認識で、動いているつもりなんだけどな」
「え? 本気で言ってるの?」
彼の普段の行いを客観的に見ている方からすればどこをどう改めているのかみる香には謎であった。しかしバッド君が冗談で言っているようにも見えない。
頭がこんがらがりそうになったみる香は話題を変えることにした。バッド君がみる香を呼び出した本来の要件についてだ。そこでみる香は一番報告したかった先程の出来事をバッド君に伝え始めた。飯島とのやり取りのことである。するとバッド君は嬉しそうに「飯島さんか、よかったねえ」と笑顔で本日の喜びを祝福してくれる。
「夕日さんがいない事が多そうだから、気になってたんだよ。でも今日は好調だったみたいだね、良かったよかった」
バッド君が話そうとしていたのはこの件だったらしい。檸檬が部活で文化祭準備に参加できない日が多いため、みる香はぼっちになってしまうのではないかと気にかけてくれていたようだ。こういう話を聞くと、彼は本当に本気でみる香をサポートしてくれていることがよく分かる。
「ありがとう」
みる香は自然とお礼の言葉を告げていた。バッド君は笑いながらみる香の感謝を受け入れてくれる。
「私ね、明日も頑張って話しかけてみようと思う。バッド君に頼りきりはそろそろ卒業しないとね」
そう言って大きく伸びをした。今なら空でも飛べそうな気分に浸っていると突然中庭の扉が開け放たれ、教師に早く下校をするよう注意される。言われるがままに学校を後にした二人はどちらからともなく一緒に同じ道を歩いて帰宅した。
第二十四話『新学期』終
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