第二十五話『文化祭の始まり』

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「救世主なんて大袈裟よ。ふふ、でも役に立てたようで良かったわ」 「ほんとほんと。桃田ナイスだよ、ありがとね」  すると急にどこから現れたのかバッド君の姿が目に映る。彼は文化祭の準備で買い出しだったはずだ。いつの間にか戻っていたのだろうか。バッド君は爽やかに笑いながらみる香と桃田を見て再び言葉を発した。 「買い出しの間にみる香ちゃんのピンチに気付いたんだけど、桃田がいてくれて助かったよ」  どうやら遠くからみる香の状況を把握していたらしい。しかしバッド君が来なくて良かったとみる香は思った。  彼が現れれば彼を好きな女子学生達はみる香を敵視して逆効果のような気がするからだ。女の子の敵をこれ以上増やしたくはない。しかしバッド君の気持ちは素直に嬉しいと感じていた。  そこまで考えみる香は今回二人に気を遣わせてしまった事を実感し、己の未熟さを嘆く。もう少し、うまく人付き合いができないものだろうか。 「前にさ、みる香ちゃんが言ってたよね。俺に頼りきりは卒業するって」 「え? う、うん。言ったけど……」  突然のそのバッド君の言葉にみる香は困惑した。なぜ今その話を持ち出してくるのだろうか。しかしバッド君はそのまま言葉を続ける。 「うん、その言葉さ、凄くいいなと思ったよ。みる香ちゃんが自分から積極的に友達作りに励もうとしているのが伝わってきてさ。だけど、それは頑張れる時だけでいい。俺にも最後まで頼ってほしいな」 「え……」  バッド君を見上げた。彼は爽やかに笑いながらしかし、いつもより真剣な眼差しでみる香を見据えている。 「俺はそのために君をサポートしているんだよ」  そしてそっと優しく頭を撫でられた。本当に変な話だ。異性に安易に触れられるのは嫌なはずなのに、最近バッド君に触れられることだけは不思議と嫌じゃなかった。彼はきっとみる香が自分を責めないようにと励ましてくれているのだろう。  それに気づいたみる香は「うん」と答えながら彼の手の心地よい温もりに浸っていた。彼の励ましの言葉は、今のみる香にとって救いの言葉だった。 「ちょっとあんた、いつまで撫でてんのよ」  すると桃田が突然バッド君の手を掴み、乱雑に彼の手を退けた。  バッド君は笑いながら「あははつい」と言って頭を掻いている。そしてすぐにみる香に嫌じゃなかったかと尋ねてきた。彼からこんなことを聞いてくるのは中々珍しい。 「大丈夫、なんかお父さんみたいだったし」  そう言うと桃田は途端に吹き出した。楽しそうに笑う桃田につられてみる香も笑い出す。バッド君も何だか嬉しそうに笑い、そのまま三人で笑い合っていた。  みる香にとってこの時間はとても温かく、自然と優しい気持ちを思い起こさせていた。
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