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文化祭が始まった。今日から土日で二日間に渡って行われる。みる香の当番は土曜日の午前中だ。
檸檬と同じ当番になる事ができていたため、いつもより安心感が大きかった。当日は予め用意されていたレトロな丈の長いメイド服と紳士的な執事服を男女が装い接客をする。
「わ〜檸檬ちゃん可愛い!!」
檸檬にレトロなメイド服はとても似合っていた。普段二つに結ばれた髪型は後頭部の下でお団子状にアレンジされ、いつもと違った檸檬がいつになくおしゃれに見える。
檸檬はありがとうと笑顔で礼を告げながら櫛とヘアピンを手に取りみる香に一歩近づいてきた。
「森村ちゃんにもしてあげる! 髪型は何がいっかな〜」
そう言って楽しそうに思考を始める檸檬を前にみる香は一瞬たじろいだ。気持ちは有難いのだが、自分のメイド服姿などたかが知れている。誰が見てもただのモブに過ぎないだろう。
それにみる香自身もメイド服に気分が上がっているわけではなかった。可愛いとは思うが、自分の見た目にそぐわない。ゆえに、着飾る必要などないとそう思っていた。
しかしそんなみる香の気持ちとは裏腹に檸檬はみる香を椅子に座らせると短い髪を櫛で梳かし始めていく。抵抗はできずそのまま大人しくしていると次第に気持ちに変化が現れた。
(でも……友達にこういう事されるのは悪くないかも)
檸檬に櫛で梳かされながらそんな考えが新たに浮かぶ。ここは檸檬に任せてみよう。
そう考えながら彼女のヘアアレンジが終わるのを待っていると数分してから「できた!」という檸檬の声が聞こえてきた。
すかさず檸檬に鏡を渡され、確認してみると丁寧に一本のリボンと共に編み込まれた三つ編みがみる香の右側に施されている。長さがあったことで編み込みからはみ出ていたリボンも蝶々結びをされており、いい具合に無駄がなかった。とても可愛い出来栄えだ。
感動したみる香は檸檬に感嘆の声をあげる。
「すごい檸檬ちゃん! プロ!?」
正直な感想を述べると檸檬は照れながら「えへへ、髪の毛いじるの好きなんだ」と満更でもなさそうな顔をしてそう答えた。それから仕上げだと言わんばかりにみる香の髪型にスプレーをかけていく。
「せらちゃんと莉唯ちんにも後で見てもらおうね」
檸檬はそう言ってみる香に笑いかけた。みる香も笑顔で頷いてみせると「開始五分前だよ〜」という実行委員の声掛けで開店準備を始める。
そしてふと窓にうっすらと映った自分を見つめ、可愛らしい髪型が自身の髪に施されているのを再確認する。メイド服を身に纏った自分は決して可愛いとは思えない姿だったが、髪型が違うだけでこんなにも違く見える。
まるで檸檬に魔法をかけられたようで気分は高揚していた。
(文化祭楽しむぞ!!!)
そう意気込み、みる香は気合を入れた。
第二十五話『文化祭の始まり』終
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