第二十六話『波乱』

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 文化祭の一日目は無事に終了した。当番も終わり、午後になるとみる香は檸檬と文化祭を見て回った。  これまで文化祭は一人で回り、適当に時間を見て帰宅していたみる香にとって檸檬と二人で回れることは夢のような話だった。  星蘭子と莉唯のクラスにも足を運び、縁日を出し物にしていたA組で催しを楽しんだ後に当番である二人とも雑談をしてひたすら笑い続ける。なんて楽しい時間なのだろう。  それからクイズを出し物とする桃田のいるD組にも足を運び、桃田とも会話をしながら催しを楽しんだ。桃田は不正解だったみる香にもおまけでこっそり景品のお菓子を分けてくれた。一日目の文化祭はみる香の想像してきたどんな妄想よりも楽しいと思えた。  文化祭は終了していたが、一日目がとりあえず終わったということで、一時的な打ち上げが教室内で行われることになっていた。  ただ明日文化祭で部活動の出し物を控えている檸檬は参加ができないと実行委員に申告をして、打ち上げで配られる予定のスコーンを受け取るとそのまま部活の方へ向かっていった。  檸檬が離脱したことで多少の心細さはあれど、文化祭準備を乗り越えてきた自分なら大丈夫だとみる香は自分に言い聞かせる。そのまま教室に入るとクラス内はいつも以上に盛り上がっていた。  教室の内装も相まっているせいか、この雰囲気はパーティーのようにも感じられる。  みる香もその雰囲気に呑まれ、誰かに話しかけようかと積極的な事を考えていると、実行委員が次々と打ち上げ用のスコーンをクラスメイトに配り始めていた。  その様子を見てそういえばと思い出し、辺りを見回すとバッド君の姿が見えないことに気が付く。 (またどこかで油でも売ってるのかな……)  そんな事を考えながら実行委員からスコーンを渡されるのを待っていると突然教室の扉が開かれ、E組の栗井がやってきた。栗井はおそらくクラスの中心的グループの一人で、みる香のクラスであるC組の中心グループとも仲が良かった。  最近そのような場面をよく目にしていたため、よく知っていた。栗井は「来ちゃった〜」と楽しげにクラス内に入り、中心グループの子達と楽しげに会話を始める。栗井のことは嫌いではなかったが、くだんの件から多少の気まずさは持ったままだった。  なるべく彼女とは関わらないようにと意識を高めていると突然栗井はみる香に焦点を当ててこちらに近付いてきた。 (!?)  予想外の出来事にみる香は困惑する。なぜ彼女が近づいてくるのか見当がつかなかった。 「森村さん? だよね」 「え、う、うん」  目の前までやってきた彼女を初めて間近で見たみる香は、彼女の整った顔立ちに思わず息を呑む。  よく見ると、栗井はバッド君の好みのタイプによく該当していた。そう考えながらも栗井はみる香をじっと見てくる。  その視線に耐えかねたみる香は「あ、あの……何かな?」と声を溢すと栗井は再び口を開いた。
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