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『気持ち悪いから、もうそっとしてほしいです』
みる香がパニックに陥る中、書いたのはこれだった。手が震えているせいで、字はいつもより汚かったがきちんと読める程度には文字が書けていた。
しかし栗井にはうまく伝わらなかったようだ。彼女は怪訝な顔をしながらメモ用紙をヒラヒラと揺らして床に落とす。そうしてみる香を再び見下ろした。
「いやいや何!? 嘘言わないでよ! 今自分がおかしいことしてるってわかってる?」
そんな言葉をみる香に浴びせる。彼女はみる香のメモの内容を虚偽であると捉えたらしい。
「半藤君との事、詮索されたくないからって変な演技しないでよ! ちょっと気に入られてるからって調子乗らないで?」
気に入られていると言われみる香は思考を巡らせる。彼はただ、みる香が契約者であるから、ああして助けてくれるだけなのではないだろうか。
パニックの中そこまで考えて大事なことを思い出す。そうだ。そうだった。
バッド君はただの契約者ではなく――
(友達になりたいって、言ってくれた……)
それだけでも嬉しい。そうだ。ただの契約者ではない。友達だ。友達。いや、本当は―――――
(私は……それだけじゃ、ない気がする)
いつしか、彼が柿枝と二人でいることを複雑に思ったことがある。あれはみる香を敵視する彼女が、作戦とはいえバッド君と仲良くしている姿にこのような感情を抱いたのだと思っていた。だが、それだけではなかった。
バッド君に勉強を教えてもらう時間が楽しかった。最初こそは単純に、彼の頭脳の高さを見込んで頼んでいたことだったが、一緒に勉強をする時間は不思議と嫌いではなかった。
無意識の内に、ずっとこんな風に教えてもらえたらなんて考えている自分がいた。
バッド君と不特定多数の女の子との噂を聞かなくなっていたことに関しては、内心で嬉しく思う自分がいた。
しかし彼の事だからきっと第三者が見かける機会が減っただけなのだろうとそう考えを巡らすと、なぜか落ち込んでいる自分もいたのだ。
彼に触れられて鼓動が速くなったのも、見つめられるとくすぐったい気持ちになるのも、檸檬や桃田へ感じる友達への気持ちとは違う気がしたのも全部、全部――――答えがあった。
(そっか、そういうことだ)
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