31人が本棚に入れています
本棚に追加
悲しい理由は至ってシンプルだった。みる香はそこで初めて自身の想いに気がつく。みる香は、バッド君が、好きなのだ。
(私……バッド君の事、好きだ)
ようやく理解した。みる香は彼を友達としてだけでなく、一人の異性として――好きなのだ。
みる香はこんな状況で彼への真の思いに気付いたことがなんだかおかしかった。わかったところで栗井の攻撃は収まらない。それどころか、先ほどよりも悪化している気がする。
「森村さん見てるとイライラする。ねえ、いい加減その演技やめなよ」
栗井はそう言うとみる香に暴言を吐き出し始めた。先ほどよりもきつい口調だ。もしかしたら日頃からみる香に対して思うところがあったのかもしれない。心当たりはあったからだ。
「何も取り柄がない癖に男に縋っちゃって腹立つんだけど」
彼女は今までそんな事を思い、その可憐な容姿の中にそこまで黒いものを隠していたのかと驚くほど衝撃的な言葉を投げてきた。
彼女の罵声は途切れることなく次々と放たれており、今のみる香のメンタルをこれでもかというほどに削ってくる。みる香は耳を塞ぎながら彼女の言葉を止めようと思い口を開く。
「や………て…」
しかし声が出ない。みる香は絶望的な気分に陥った。文化祭の準備で楽しく話したはずのクラスメイトはただただみる香と栗井の様子を傍観している。栗井の放ち続ける暴言を止める者は現れない。
飯島の姿は見えなかったが、それ以外の人間は誰一人、みる香を庇ってくれようとはしなかった。
(まあそれもそうか)
みる香は絶望感の中、納得していた。きっと今回の出来事でみる香の噂は学年中に広まるだろう。
森村みる香は聞かれた質問に答えず、いきなり無言で紙に文字を書き出す変人なのだと。檸檬はともかく、星蘭子や莉唯までもがみる香を遠ざけてしまったら立ち直れそうにない。
だがそんな未来を、この状況では考えるしかなくなっていた。今置かれているこの状況は、友達がいなくて苦しんだどんな時よりも苦しく、逃げ出したい、吐き気がするほど最悪な気分だった――――――。
「何してんの」
最初のコメントを投稿しよう!