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突然、乱暴に開け放たれた教室の扉は、クラス中の視線を集めるほどの大きな音を立てた。声色はいつもと違っていたが、この声は間違いなくバッド君だ。
(バッド君、きてくれたんだ)
みる香はそのことに嬉しさを覚える。彼がみる香を友達以上の存在と思っていなくとも、助けにはきてくれたのだ。昇格が理由でもなんでもいい。それが嬉しかった。
バッド君は迷う事なく一直線にみる香の元へ歩み寄ると、みる香にペットボトルを差し出した。
「体調、大丈夫? これ水だからゆっくり飲んで」
そう言って彼が差し出してきたのは新品の水だった。バッド君はそのままキャップを開けるとそっとみる香に渡してくれる。みる香はそのまま水を飲み込んだ。
そんなみる香の震える身体を治めるかのように彼は優しく背中をさすってくれる。不思議と言葉にし難い安心感がみる香の身体中を巡ってきた。
するとバッド君はみる香の身体の震えが治まっていくのを確認して、栗井の方へと顔を向けた。
「ば、半藤君……? 私じゃないよ? その子が一人でしゃがみ込んで」
「そういうのどうでもいいよ、君って体調が悪い子にも平気で暴言吐く人間だったんだね」
「ち、ちが……! だって演技だと思って!!!」
栗井は焦った様子でバッド君に言葉を投げる。しかしバッド君の目は冷え切っており、あまりにも冷めきった瞳は栗井の動揺を更に加速させた。
「半藤君、信じてよ……だって私、その子に質問しただけ……答えてくれないから、ちょっと感情的になっちゃったけど…」
栗井はそう言って座り込むみる香をチラリと見てくる。バッド君は心底呆れたように大きなため息を吐くと、自身よりも背の低い栗井を見下ろしながら言葉を放った。
「誰もがみんな、君みたいに大勢の前で話せると思ったら、大間違いだよ?」
そう言ってバッド君は再びみる香に向き直り、身体がまだ僅かに震えているのを確認する。
「……ひどい事するなあ」
そんな言葉を小さく呟いて彼は栗井には目を向けず、再び声を発した。
「本当、くだらない事するよね。こんなことして俺が君を好きになる訳ないのにさ」
「なっ……」
途端に栗井は顔が真っ赤に染まる。まるでバッド君には全てがお見通しのようだった。
彼はいつものように爽やかな顔ではなく、心の底から怒っている様子だった。そうして床に落ちた一枚のメモ用紙を彼は見つける。
そっとメモを拾い上げると低い声でもう一度栗井に言葉を吐いた。
「愚行、としか言えないな」
その言葉に傷ついたのか、栗井は泣き出しそうな顔を見せる。そして歯を食いしばりながら彼女は口を開いた。
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