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「どうして……その子を庇うの!?」
栗井は座り込むみる香を責めるように睨みつけ、疑問をぶつけ始めた。
「どうしてって」
バッド君はそう言って立ち上がる。みる香を庇うように栗井に向き合った彼は随分と冷めた声色で彼女を見据えた。
「君に関係ある?」
その一言で栗井は言葉を失った様子だった。みる香はただただ目の前で繰り広げられる二人のやりとりを見ているだけだ。
「みる香ちゃん、行こうか。立てる?」
バッド君はそのままもう一度みる香の方に向き直ると優しい顔をして手を差し出してくれる。みる香は彼の手をそっと握った。
しかし身体の震えは落ち着いたものの、足に力が入らなかった。声に出そうと思うが、うまく口も動かせない。これは間違いなく精神的なものからきていた。その様子を察したバッド君はみる香を案じるように言葉を発する。
「ごめんね、持ち上げるよ」
(!!!)
そう言って軽々とみる香を持ち上げた。お姫様抱っこというものだ。みる香は羞恥心に駆られながらもこの状態では拒むことはできない。
そんなみる香を優しく見つめながらバッド君は足を動かし始めると教室の扉付近で一旦立ち止まった。クラス中の視線は集まったままだ。
「あのさ」
そして誰にというよりは、クラスにいる全員に対して口を開く。クラス内はシンと静まったまま、バッド君の言葉を待った。
「みる香ちゃんを貶すやつは俺、許さないからね」
その言葉を最後に、みる香を抱えたバッド君は教室を後にした。
廊下を歩いていると途中で桃田がいることに気がつく。桃田は心底悲しそうな顔をしてみる香を見てきた。そうして大丈夫かどうかを聞いてくる。
みる香は笑って見せたつもりなのだが、痛々しい笑みだったのだろう、桃田の表情は更に暗くなっていた。
「桃田、頼むよ」
「無論よ」
バッド君はそれだけ言うと桃田の元から足を動かす。桃田は逆にC組の方へと足を進めていた。
みる香は二人が何の会話をしているのか分からなかったが、二人が味方でいてくれることにとてつもない安心感を覚えていた。
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