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「ちょっと休んでいくといいよ。俺も少ししたら戻るからね」
保健室までみる香を運んだバッド君はそんな言葉をかけながら柔らかく笑ってくれる。その笑顔に安心しながらもみる香はゆっくりと頷いた。
「まだ、声は出せない?」
『うん……あ、とかしか言えない』
みる香は言葉の代わりにテレパシーで答えを返す。
『情けないよね、私、ちっとも成長できてなかった』
そう言って笑ってみせた。この笑みは、強がりだ。
バッド君はそんなみる香を見つめながら無言でみる香の頭を撫でた。そして椅子から立ち上がると「待ってて。帰りは自宅まで送るよ」と言い残して保健室を出ていく。
どこにいくのかはわからないが、用事でもあるのだろう。いつもいたりいなかったりと神出鬼没なバッド君の事だ。
みる香は考えるのを止めると、先ほど助けに来てくれたバッド君と自分の身を案じてくれた桃田の顔を思い出しながら暗くなり始めた窓の外に目線をうつした。
第二十六話『波乱』終
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