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第二十七話『制裁』
* * *
半藤は煮えたぎる思いの中、廊下を歩いていた。許すわけにはいかない。
彼女の一番の危機に間に合わなかった自分自身はもちろん、危害を加えた全ての人間にその感情は募っていた。こんな気分になったのは人生で初めてだった。
廊下を歩き続けると目的の場所へと到着する。扉の近くには桃田が立っており、彼女は非常に苛立った様子でブツブツと何かを呟いている。
「遅い」
桃田は半藤の姿を見つけると責めるようにそう告げる。半藤はいつものように笑うことはなく「どういう状況?」と尋ねた。桃田は息を吐きながら言葉を返す。
「最低のクズ共って感じね。あんたが止めてなきゃぶん殴りに行ってるとこよ」
「予想通りってところか」
そう呟くと半藤は扉が閉められた教室から聞こえてくる声に耳を澄ませた。中からは様々な困惑の声が飛び交っている。
「どうしよう……嫌われた、半藤君に。どうしよう」
「栗井ちゃん大丈夫だって、ほら? 半藤もカッとなっただけでしょ?」
「そうそう、ていうかスコーンでも食べない? 一個残ってるしさ」
「それ森村の分じゃね?」
「あの状態じゃ食べれないでしょ? 食べちゃおうよ」
「半藤の分は残して栗井ちゃんが渡したら?」
「じゃあ……そうしようかな、みんなもスコーン食べよ?」
どいつもこいつも呆れたような人間ばかりだ。半藤は冷めきった面持ちでそのまま教室の扉を開けた。想定通り一斉に半藤へ目線が集められる。
半藤はそのまま間抜けにもスコーンを手に持つ栗井の元へと足を向けた。そして彼女の前に立つと、半藤は口を開く。
「栗井さん、君まだいたんだ」
「半藤君……えっと」
栗井の言葉を待たずに半藤は彼女の持つスコーンに目を向ける。
「それさ、みる香ちゃんの分だよね? 返してくれる?」
「えっ」
栗井は困惑の色を見せ、半藤を見た。袋詰めされたスコーンをぎゅっと握る音が静まった教室内に響く。
そんな二人の様子を静観していた一人のクラスメイトは声を出してきた。
「でも森村さんどうせ食べれない……よね」
そのクラスメイトに半藤は目を向けるとそのまま言葉を投げた。顔は、すでに笑ってはいない。
「それみる香ちゃんが言ったの? 食べれないって君に? 違うよね? 決めつけってどうかと思うな」
半藤の言葉に良心など微塵もなかった。気遣う理由など、みる香を苦しめた時点で不要だ。半藤の言葉に女子学生は返す言葉がなく黙り込む。
半藤は彼女からは視線を外し、栗井に視線を戻した。彼女は僅かに震え、半藤に許しを乞うような目を向けている。
「ご、ごめん……あの、返す……から」
「うん、それが当然だよね」
半藤は薄く笑って見せる。しかしこの笑みは友好的なそれではなく、蔑みの意を含んだものだ。しかしまたもや外野のクラスメイトが半藤に言葉を投げてくる。
「半藤さ……正直、スコーン一つで大袈裟じゃね? そこまでキレるか? 普通」
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