第二十七話『制裁』

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 栗井を庇うようなこの男子学生の台詞から、こいつは栗井を好いているのだろう。しかしそんな事は半藤には関係のない事だった。 「スコーンなんてどうでもいいけどさ、みる香ちゃんから何かを取るのは腹立たしいでしょ」  そう答え、男子学生を睨みつけた。 「たとえそれが米粒一つだとしてもさ」  すると男子学生は言葉を失くしたのか、それ以上何かを言うことはなかった。  半藤は無力化した彼から目を離し、再三栗井に目を向ける。そして彼女を見下ろしながら言葉を放った。 「君も遠慮とかないの? 普通は遠慮するよね、自分が逆の立場だったらって考えたり、しないのかな」  そう言って彼女の顔を覗き込むように顔を近づけた。彼女は近づいてくる半藤をそっと見上げてくる。そのまま半藤は言葉を続ける。 「栗井さん、そういうのを何て言うか知ってる?」  半藤は笑みを向けた。栗井は棘のある言葉よりも半藤の笑みで安心感を得たようだ。ふっと安堵したような顔を見せ、半藤を見つめ返してくる。  しかし半藤はそんな栗井の期待を裏切るように笑みを消すと軽蔑の目を向けて最後の言葉を吐いた。 「図々しいんだよ、お前」 「………え?」 「二度と来るな」  それは今後一切、みる香と半藤に近付くなと言う意味が含まれている。言葉が足らずとも、栗井も理解しているはずだ。  半藤の心無い発言でひどく困惑した様子の栗井を残し、半藤は彼女の手元からスコーンを奪い取った。 「お前らも同罪だからな」  半藤は教室にいる人物全員に向けてそう言葉を放つ。半藤の視線はいつもの爽やかなものとは打って変わり、鋭く禍々しい雰囲気を醸し出していた。  これでもかと言うほど静まり返った教室にそのままクラスメイト達を残し、教室の扉に向かう。入れ替わるようにして桃田が教室に入ってきた。 「もういいのね?」 「ああ、もういい。あいつに謝罪は期待できない」  そう言って半藤はみる香を思い浮かべる。彼女をあのまま放っておくのは胸が痛む。 「じゃあ後はなんとかしとくわ」  その言葉を聞いて半藤は足を動かした。少しでも早く彼女の元へ行ってあげたい。そんな思いだけが半藤を動かしていた。
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