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二日目の文化祭に出向くのは気まずかった。しかし欠席だけはしたくない。
みる香は玄関を出ると門の前で待つバッド君の姿を見つける。彼の瞳と目が合わさり、動悸は激しくなる。そして同時に、とてつもなく嬉しかった。バッド君はみる香を気遣って来てくれたからだ。
「おはようみる香ちゃん、行こうか」
『うん。来てくれてありがとう』
バッド君にはしばらくテレパシーで言葉を返すことになりそうだ。こんな状況でも、テレパシーが使えて本当に良かったとみる香は安堵の息を吐く。
バッド君は登校の際もずっとみる香を気遣うように話しかけてくれていた。正直、好きだと気づいた相手にこんな風に労ってもらえるのは嬉しかった。
(なんて、こんなこと言ったら嫌われちゃうかな)
そう考えながらもみる香は下駄箱まで足を運ぶとそこで一人下駄箱に背中を預けたまま立っている生徒の姿があった。飯島だ。
飯島はみる香の姿に気が付くと、寄っかかった下駄箱から身体を離し、こちらの方へ歩いてくる。そして声を発した。
「聞いたよ、昨日のこと。私、失望した。森村さんはなんもしてないのにね」
(え……)
彼女の言葉はみる香の肩を持つような台詞だった。予想外の言葉にみる香は彼女をじっと見つめてしまう。
「声出ないんだって? はあ、うちの友達があんなに馬鹿だとは思わなかった。私の謝罪が代わりになんてならないけど、ごめんね」
飯島は昨日みる香と栗井のやりとりをただ傍観していた飯島の友人らの事を言っているのだろう。彼女が謝る必要など、どこにもないというのにそんな風に謝罪してくる飯島の誠実さが、みる香の心に響いた。
みる香はそのままスマホを取り出しメモ用紙に文字を打ち込むと彼女にそれを見せつけた。
『飯島さんと、友達になってもいいですか?』
それを見た飯島は驚いた顔をして口元を緩めると「当たり前だよ、ていうかタメでいいじゃん」と笑い声が返ってくる。みる香はそのまま笑みを返した。
「みる香ちゃん、良かったね。そろそろ行こうか」
その一部始終を黙って見守っていたバッド君はみる香の腕を引いて歩き出す。
きっとみる香を気遣って腕を引いてくれているのだろうが、それでもバッド君に手を掴まれてリードされていることが嬉しかった。
教室に行くのはまだ怖かったが、バッド君がいてくれるのなら大丈夫な気がしている。これはきっと彼への信頼が強く、みる香自身がバッド君を心から好いているからなのだろう。
そのまま彼に腕を引かれてみる香は教室へと向かう。
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