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第二十八話『言われない話』
二日目の文化祭はずっと誰かがみる香に付き添ってくれていた。元々は当日任せで誰かと回る予定のなかったみる香だったが、まるで皆で口裏でも合わせたかのように必ず誰かが隣にいてくれた。心配してくれているのだ。みる香はそれが嬉しかった。
昨日の出来事は、きっと忘れる事などできないだろう。クラスメイトのほとんどの人間に絶望的な感情しか今は持てない。
だが、昨日の件でいいことも少なからずあった。それは飯島という新たな友達を得られたことと、バッド君への気持ちに気付けた事だった。
みる香の声は次第に話せるようになっていった。
最初は「あ」や「う」など一文字程度しか話せなかった言葉が、次の日は単語まで言えるように、そしてその次の日には今まで通り話せるようにと順調に戻っていった。
今ではもう、会話も普段通りにできるように回復している。両親にも学校でのことはバレず、ただの風邪であったと誤魔化すことができていた。
わざと咳を出し、仮病を演じるのは心苦しかったが、学校での出来事を話すのは嫌だった。これが一人であれば、みる香も心の拠り所がなく両親に打ち明けていたかもしれない。
だが今はみる香を案じ、心配してくれる友達がいる。それが心強かった。
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